【追悼】俳優・斎藤歩さん 演劇にささげた人生 「最期まで撮れ」 妻の西田薫さんに初めて告げた想いとは
2025年 6月17日 19:45 掲載
今月11日、札幌在住の俳優・斎藤歩さん(60)が亡くなりました。最後の最後まで北海道の演劇の発展に打ち込んだ、その姿を追いました。
斎藤歩さん。札幌在住の俳優、劇作家、演出家です。北海道大学の演劇研究会に入部以来、40年にわたってテレビや演劇、映画、アニメの声優など、幅広く活躍してきました。
妻の西田薫さんも俳優です。
西田薫さん:「いつも厳しいです。ちゃんと指摘をしてもらえる演出家というのが、札幌では他にいないんですね」。

2021年、斎藤さんは尿道にがんが見つかりました。薫さんの支えを受けながら、舞台に立ち続けてきました。
2月、これまで通りにいかないことが増えてきました。月刊誌の連載に穴をあけました。
斎藤歩さん:「体調が悪くて書けなかったの。(休載のお知らせに)1ページも割いてさ。もったいない」。
8月の舞台の初稽古を、3カ月も繰り上げました。斎藤さんが作・演出し、そして出演も予定されいます。しかし…。
斎藤歩さん:「演出する体力がない。今の俺に。今たった2時間ちょいでしょう?申し訳ない」。

斎藤さんは、週の半分を1人で過ごしていました。薫さんは舞台の全国公演のため、週の前半は札幌で過ごし、後半は各地の公演に出向きます。公演への参加は、斎藤さんが背中を押しました。
斎藤歩さん:「あいつ(薫さん)は残る、やめる、降りる、ということまで言ったから。いや、それは絶対駄目だって言って。3カ月も会わないこととか平気であったし。でもね、(薫さんに対して)なんかこんな感情になると思っていなかった。なんなんだろうね。こんなにもね、(妻が)自分の心の中の“つっかえ棒”なのか。こんなにも必要としていたんだ」。

4月、薫さんの凱旋です。札幌公演は、4日間5ステージが行われました。薫さんの舞台を見届けた3日後、斎藤さんが倒れました。
北海道がんセンター・丸山覚統括診療部長:「かなり状況はね、よろしくないです。今、命が危ない状況に差し掛かってきているということに変わりないので、それはちょっと覚悟していただきたい」。
斎藤さん:「もう1回、家にいたいな。1回(家に)帰れない?」
丸山覚統括診療部長:「状況次第です」。
薫さん:「ゴールデンウィーク明けだね。私が(公演から)戻ってから」。
薫さんの公演が終わるまでのひと月を、病院で過ごすことになりました。
記者:「また来てもいいですか?」
斎藤さん:「大丈夫」。
記者:「まだ撮影していても大丈夫ですか?」
斎藤さん:「いいよ。最期まで撮れ。最期まで撮ってもらいたいなと思っていて。そんなドキュメンタリー、なかったんじゃないかな」。
記者:「またカメラ持って来るから。すぐまた来るから」。

5月、全国ツアーが終わり、薫さんは斎藤さんと共に自宅に戻りました。ただ、体調が良くなっていくことはありませんでした。
近くの介護施設に入っている、母親の斎藤紀子さん(84)です。時々、見舞いに訪れます。
斎藤歩さん:「毎日ちょっとずつ、いろんなことができなくてなっていく。退院した日は歩いていた。だけど、背骨に転移している部分が神経にどんどん悪さをして。あれ?って思ったら、どんどんしびれていった。毎日、足からどっかで動かなくなっていって。今、全く下半身が動かない、両方。今や母さんの方が自由だ」。
介護ベッドで、横になる時間が多くなりました。稽古の様子を録画し、モニターに再生しながらの演出です。

今月7日。
斎藤歩さん:「確かにね。ちょっと苦しいわけよ、息が。ホームページに、正式には発表したんだけれど。8月のアフタートーク。正式に出演しないことで発表した。声が出ない。この声じゃ、北八劇場を支配できない。稽古がもたない。ダブルキャストって言っていたんだけれど、断念します」。
8月の舞台に立つことを諦めていませんでした。2日後、容体が急変。芝居仲間や友人らが訪れました。
そして、11日未明。
薫さん:「止まっている?歩。呼吸止まっている?止まっちゃったかな?歩」。
舞台にささげた生涯を閉じました。60歳でした。
薫さん:「ありがとうね。歩、いっぱいありがとうね」。

斎藤さんが退院した5月7日、2人はこんな話をしていました。
斎藤歩さん:「(薫さんが)俺の演出を受けて、札幌で俺の芝居をしてるときには見られないものが、やっぱり東京のかつての仲間たちでやっている時はあって。それがね、とってもやっぱりいいんだよね。すごく彼女の、その底抜けの明るさみたいなものに助けられた芝居がいくつかあるのよ。それはやっぱり、俺が彼女の芝居っていうのが、いいなと思っているところではないか」。
薫さん:「そうそう褒められることはないので、そんなふうに思ってくれていたっていうことも、初めて聞いたので。ありがたく思います」。
斎藤歩さん:「それ、でも褒めて出てくるもんじゃねえからな」。
薫さん:「芝居の時に?いいよ、いいよって言われて?」
斎藤歩さん:「それでいいんだよ。それ君の明るさだよ」。