イカ消滅の危機…救世主なるか?「海のダイヤ」の豊漁で直面する矛盾 ピンチを乗り越える鍵は函館の歴史に
2026年 6月 9日 17:53 掲載
8万円の燃料代をかけた初水揚げは、わずか2匹。
漁師
「夢も希望もねぇよ」
函館名物の「イカ」が姿を消しつつあります。
一方、近海では巨大魚が豊漁です。
漁師
「災害ですよ、災害。捕らせてください。マグロを」
しかし、浜値で1匹数十万円のマグロは、
手を出すことができません。
道南の海の「異変」。何が起きているのでしょうか。
【「イカのマチ」函館 豊漁だったあの頃と今】
函館でしか味わえない新鮮なイカ。
「透明ですよね、透き通っている」
「どこにいてもこういうイカを食べられるのは夢ですよね」
イカが観光客や飲食店、製造業を支えてきました。
30年前、函館の市場で撮影された競り。
スルメイカのケースがうずたかく積まれています。
しかし…
前田愛奈記者(6月2日)
「函館の市場です。
本来であればこの時間、この場所にスルメイカが並び、
競りにかけられるはずですが、
イカの姿はなく、閑散としています。」
初水揚げはほとんど漁獲がなく、
2年連続で初競りが延期に。
解禁から1週間たった今も
競りは行われていません。
漁師
「厳しい。年々ひどくなってくる感じ」
「廃業しなければだめだ。本当に。冗談でなく」
函館経済の中で水産業の占める割合は
2018年度でわずか2%。
その比率は今も大きく変わりません。
その中のイカの漁獲高の減少は
マチの経済全体でみると微々たる額でしかありません。
しかしブランドの価値というものは、
数値には表れてきません。
夏祭りで踊るのはその名も「いか踊り」。
ご当地キャラクターも。
函館は今も「イカのまち」の看板を掲げ続けています。
富田鮮魚店 富田和子さん
「函館はやっぱりイカがメインだから。
イカがないとお客さんは減っていくので、
少しでも漁で上がってくれたら助かる」
マチが望むように
イカが戻ってくる可能性はあるのでしょうか?
北海道大学大学院水産科学研究所 中屋光裕准教授
「夏ぐらいまではイカ釣り漁船で捕れるのは厳しいと思う。
調査の範囲から外れたところにいれば何とかなるが、
今のところあまりいい話は聞いていない」
函館は
最初から「イカのマチ」だったわけではありません。
かつては
北洋漁業のサケやマス、カニなどがマチを支えていました。
しかし、国際ルールの変更で、
1970年代以降、一気に水揚げがなくなります。
この大ピンチをどう乗り切ったのか。
過去の私たちの取材で函館の老舗食品会社の代表は、
次のように語っています。
小田島水産食品 3代目 小田島隆社長
「イカしかなかった。
原料がイカしかないというのが(函館は)イカに特化した。
デメリットをメリットに変えた」
【救世主に?「海のダイヤ」クロマグロの可能性と課題】
前鮮魚店 前直幸 社長
「津軽海峡はうじゃうじゃ飛び跳ねているみたい。
イカのマチが不評ならマグロのマチでもいいんじゃないかなって」
近年、道南の海で存在感を増しているのが、
「海のダイヤ」、クロマグロです。
函館で水揚げされる「戸井マグロ」は
青森県の大間と並ぶブランドマグロです。
今、このマグロを巡り
現場では「矛盾」が生まれていると言います。
クロマグロ専門工房 鮪斗 小野達矢さん
「豊漁って聞くけれど、うちら的には実感はない。
捕れるけど、捕れた分、市場には流れてこない」
海にマグロはいるのに流通していない。
なぜでしょうか。
前田愛奈記者
「さきほど水揚げされたマグロが市場に置かれています。
およそ130キロ、とても立派です。」
ただ、競りにかけられるのはこの1匹のみです。
およそ32万円で競り落とされました。
今月4日に出漁した定置網漁の映像です。
マグロは30匹ほどがかかっていましたが、
漁師は1匹しか水揚げをしませんでした。
理由は厳しい漁獲枠の制限があるためです。
漁師 中村忠相さん
「年間で数量も決まってるんですよ。
いま枠を使っちゃうと、
これから値段取れるいい時期に枠がないと
捕れないじゃないですか」
Q普通にしていたら枠は超える?
「すぐ超えます」
マグロは資源保護のため
国際会議で各国の漁獲枠が決められています。
今年の日本の漁獲可能量はおよそ1万4500トン。
さらに都道府県ごとに割り振られ、
北海道はおよそ730トンです。
漁師によると、
4年ほど前から年中通して網にかかるようになり、
多い時には数百匹がかかるというマグロ。
漁獲枠を超えないよう網から逃がすしかありませんが、
同時に他の魚も逃げてしまいます。
漁師 中村忠相さん
「(定置網漁は)攻められる漁法じゃないので。
待っている状態で来るものを取るだけなので、難しい。
『マグロだけ捕るな』って言われても、入っちゃったら
網開いて出すしか方法はない。
海中マグロだらけなんじゃないか。災害ですよ、災害」
乱獲などで2010年に
およそ1万2000トンまで落ち込んだ資源量は、
2022年には10倍以上の
およそ14万4000トンまで回復しました。
函館沖の豊漁も資源回復によるものと見られています。
資源管理に詳しい専門家は、日本の漁獲量が増えた場合に
国内でいかに割り振るかの議論が大切だと指摘します。
東京海洋大学 勝川俊雄 准教授
「現場の声を全く聞かずに
機械的に漁獲枠を配分してしまった水産庁の失敗が
今まで尾を引いていると思う。
受動的な漁法(定置網漁など)の方に枠を優先的に与えて。
当然その場合、捕れない年も出てくるわけじゃないですか。
だから、そういう年には、捕れなかった分は、
能動的な漁法(1本釣りなど)で捕ってもらう
というやり方もあると思います」
国際ルールと国内の配分を見直さない限り、
マグロが函館の救世主となるのはまだ先のようです。
「イカのマチ」という一枚看板をどうしていくのか。
函館は答えを出せずにいます。



















