乗客のカメラが捉えた沈没前の船内 荒れ狂う海と叫び声 技術者がデータを完全復元 知床沖観光船沈没事故
2026年 7月23日 18:54 掲載
《まるで記録を残すために撮影した沈没前の動画》
窓に打ち付ける波しぶきに荒れ狂う海。船内にいる乗客たちの姿。
やがて船内に響き渡る叫び声。船で一体何があったのか。
そして乗客が届けたかった〝最後のメッセージ〟とは
あの日、知床沖で沈没した観光船「カズワン」。冷たい海に沈んだこの座席で、揺れ動く船内を必死に撮影し続けた乗客がいました。
最初の救助要請のおよそ1時間前、乗客のカメラに残されていた船内の映像です。海は荒れ、船は上下に大きく揺れています。
撮影していたのは乗客1人優さん。鉄道など乗り物が好きで誰にでも優しい性格だったといいます。
《ボランティアが奇跡の発見》
事故から2年以上が経った2024年8月。知床半島の先端で行方不明者を捜索していたボランティアが砂浜に打ち上げられていた優さんのデジタルカメラを見つけました。
優さんの母親)
「このストラップだ。これ優のだね。優のだ」
両親は専門業者にSDカードのデータの復元を依頼。700枚以上の写真が復元されましたが、業者から一部のデータは復元できなかったと告げられました。
《1年半かけデータを完全復元》
その後復元できないデータが残ったと聞いたカメラメーカーなど国内外の4つの企業が動きました。およそ1年半をかけ残りのデータ全てを取り出すことに成功し今年5月優さんの両親に届けられました。
優さんの両親)
「これ乗客の人でしょ?ずらーと向こうまで並んでいる後ろから撮っていますね」
新たに復元した写真は10枚。動画は10本。
優さんの母親)「映ってるよ、乗っている」
午前10時ごろにウトロ漁港を出航しおよそ5分でプユニ岬を通過します。
このとき波は穏やかでした。
およそ1時間後には、「カシュニの滝」を通過します。
《荒れ狂う海に乗客の叫び声も》
そして、復元されたデータには驚くべき動画も残されていました。
優さんの家族)
「結構、荒れていませんか「だからみんな船内にいる」
優さんは高波の中でまるで記録を残すようにカズワンの様子を撮影していたのです。
知床半島先端を折り返した後に撮影された動画出航直後のものと比較すると・・・
海の状況が一変したことがわかります。
動画の中には座席に座る乗客の姿も。船は上下に激しく揺れ叫び声も。
優さん母親)「キャーキャー泣き声が聞こえる」「あー優はこういうのを撮っていたんだ」「よくやったよ」
この動画から優さんが船の進行方向に向かって左側の中央付近に座っていたことが初めて明らかになりました。
また優さんは船内に置いてある空気清浄機を撮影していました。船が揺れる影響で時折、空気清浄機は動き優さんの足元まで近づいてきているのがわかります。
この最後の動画が撮影されたのは午前11時53分。およそ1時間後には最初の通報がありました。
カズワンの元甲板員)「これはひどいわ」「厳しい、厳しいところじゃない」
事故当日、出航を手伝った運航会社の元従業員です。甲板員などを10年以上務め知床の海を熟知しています。男性は沖合に向けて走っていた「カズワン」が陸側に向けて進路を変えていたことに気がつきます。
カズワンの元甲板員)
「多分(船長は)経験ないからどっちに行ったらいいのかと悩んでると思う」
「Qそれは波が高いから?」「波が高いからどっちのほうが波ないかなと」
「これじゃまずいと思ったと思う」
この時、波の高さは出航中止基準の1メートルを超えていたとされていてその後、波はさらに高くなっていきました。
沈没に至る過程について国の運輸安全委員会は最終報告書で船前方のハッチのふたがしっかりと閉まらず激しい揺れを繰り返す間に海水が入り込んだことが原因と指摘しています。
海難事故に詳しい専門家は最後の動画を見てすでに船が限界の状態だったと指摘します。
神戸大学大学院海事科学研究科若林伸和教授)「前後の揺れが厳しいようで
船首甲板が叩かれてると思う。(波の高さが)1メートルのあるところに行くのは限界」
「これ以上波が高くなったらもうかなり危険になってくる」
最後に荒れ狂う知床の海を走った観光船「カズワン」。
その後、連絡が取れなくなり、船は沈没しました。
《「2度と悲惨な事故を起こしてほしくない」》
優さんの両親は撮影された動画が事故の原因究明や再発防止に役立つと考え検察や運輸安全委員会に提出しました。
優さんの父親)
「揺れてる様子とかをわかるように撮ってくれてたというのは、何か後に役に立つんじゃないかなという思いで撮ってたのかなと今にして思うとそう思いますね」
優さんの母親)
「誰かのお役に立つかもしれないというそれをすぐ行動に移せたことが親としては嬉しいです」

















