ユーコン160キロのスタート地点。「レイク・ラバージ」の北端付近に設置されたキャンプ地へと到着したのが昼12時半ごろだったか。
まずは、テントの設営である。
ユーコンの鉄則。テントは、炊事をする場所から離れた所に立てないといけない。熊対策である。
ぶんぶん飛び回り、ばしばし刺しまくる猛蚊の来襲を受けつつテントを張る。
根拠は定かでないが、「蚊は、黒い色に寄ってくる」と嬉野くんが言った。
見ると、ミスターは全身黒ずくめである。そして、やはりミスターは、猛襲を受けていた。
「だめだよミスター!黒を着ちゃ!」
私はミスターを叱責した。大自然の中では、些細なことが、命運をわける。
「ぼくは、黒が似合うから」などという甘ったれた都会的な思考は、ユーコンの猛蚊の格好の餌食となる。
「ミスター、自然を甘く見てはダメだ!」
私は再びミスターを激しく叱責した。
彼は言った。
「言ってくれりゃ、黒なんか着てこなかったでしょ。」
根拠は割としっかりあることだが、「蚊は、カメラに寄って来る」と嬉野くんが言った。
見ると、確かに嬉野くんは、ミスター以上の猛襲を受けていた。
この時はまだ、嬉野くんに外見的な異変は見られなかった。しかし、このあと我々は、彼の惨状をまのあたりにすることになる。
この事件は、残念ながら放送されないので、次回以降、この場でお伝えしたいと思う。
さて、テントの設営を終えると、昼食となった。
自分で勝手にサンドイッチの、「うんざり欧米形式」だったが、不思議とうまかった。
「自然の中で食べればね、なんでもおいしい」
「それはあんまり関係ないけど・・・」
あっさり言い放った大泉さんだったが、これは私も同感だ。「メシ自体」がうまかったのだ。
昼食が終ると、ガイドふたりは、のんびりと焚き火を囲んで談笑をはじめた。
聞けば、「風が強いので、カヌーの練習は、少し風がおさまってからにしましょう」とのことである。日は長い。「のんびりこう」ということだ。
午後2時。手持ち無沙汰になった我々は、野球をすることにした。タオルをガムテープで巻いてボールにし、流木をバットにした。
大泉さんが、特大のファールを打ち、ボールは湖に沈んだ。
野球は10分そこそこで終った。
「よし。釣りだ」
釣り道具は、その日の朝、地元の釣具屋に行ってルアー2式とフライを1式買った。
「なんで3つ買うんだよ。それにフライなんておれたち素人が使えねぇだろ」
大泉くんが聞いた。愚問だ。
オレのに決まってる。
「それも会社の金で落とす気か?」
愚問だ。
出演者おふたりは、ルアーを湖に投げ込んで、釣りを始めた。30分経っても、いっこもアタリが来ない。
「釣れないねぇ・・・」
1時間たっても、
「釣れないねぇ・・・」
焚き火でコーヒーを飲んでるピートのところへ戻ると、彼は言った。
「ここで、魚が釣れたのを見たことがないんだ。」
早く言えっ!この野郎!
「・・・実は、この湖には、魚は1匹しかいない」
「は?」
「こ~んなにデッカイ魚が1匹だけ。そいつが全部食っちまったのさ!ハハハッ!」
くそおもしろくもないカナディアン・ジョークで、我々の釣りは終った。
午後4時。もうやることもなくなり、最後の手段。昼寝だ。昼寝じゃないか。「夕方寝」だ。
しかし、川原で寝ていると、いつのまにか太陽がじりじりと照りつけて、みんな寝ていられなくなってきた。
恐ろしいことに、気温が上がり始めたのだ。夕方にだ。いうなれば、ようやく午前中が終わり、正午近くになった。そんな感覚である。
だから、そうだ。「昼寝」という言葉は、合っていたのである。
午後6時。夕食。
「もうねぇ、やることないわけ」
大泉さんが、そう言ったが、まさにその通り。
感覚的には、まっ昼間に
「やることないから、夕飯でも食いますか!」
そんな感じである。
で、夕食。ピートが料理長である。そして、彼の作るメシは美味い。まさか、キャンプで「ラザニア」など食すことになろうとは思っていなかった。実際には、あの「ラザニア」は、メアリーが作ったものをピートが温めただけだったが、それにしても今回は、「食事でやられる」という心配はなさそうである。
ただ、「料理長の座」を虎視眈々と狙っている男がいた。
次週、我々は、ヤツのおかげで惨状にみまわれることになる。久々に「シェフ」登場である。
そしていよいよ「カヌーの練習」。
夜9時。水面に光が反射して、ふたりは「カヌーイスト」になっていた。
続いて「トイレの方法」の講義。驚くことに、説明するピートの顔には、まだまだビカビカの光線が当たっている。
もう見た目には、時間経過などわかりゃしない。でも、おれたちゃ、昼12時に湖に到着して、それから10時間も経過しているのである。
そしてようやく太陽が、地平線に落ち着こうとしているのである。
そんな時だ。森の中から雄叫びが響いた。
最初の犠牲者が出たのだ。ミスターのおしりは、それはもうスゴイことになっていた。
「ボタンがいっぱいあった」というのは本当にそうだ。
押したら、なんかいろんなものが出てきそうだった。
そうして、我々は、ようやく11時過ぎ。テントへ入った。外では、小鳥がさえずり、もう「夕焼け」なんだか「朝焼け」なんだか判別できない太陽が、どこかさわやかな光を放っていた。
こんな光の中、今から寝る。
「おれたちゃ、水商売じゃないんだから」
それが、初めて経験する「白夜」というものへの、正直な感想である。