いよいよ「ユーコンの流れ」へと、漕ぎ出しました。
大泉さんが言ったように「ディズニーランドのカリブの海賊」みたいな感じで、ずわーっと風景が現れてくるのである。
それは、それは・・・美しく、そして静寂の世界なのである。
「好きな人間」にとっては、それは自信を持ってお勧めできる場所である。
「いいですよ!ユーコンは!」
しかし、「いっこも興味のない人間」にとっては、
「オレ・・・なにしてんだろ?」
と、根本的な疑問が絶対にぬぐえない場所である。
そんな中、唯一ふたりが興味を抱いたのが「釣り」であった。
まぁ、彼らからすれば、
「それぐらいしかねぇだろ!馬鹿野郎」
ということだろうが、特にミスターは熱中していた。
湖でも、ピートが「釣れません」っつってるのに、びゅんびゅんと竿を振っていた。
大泉さんが「袋洗い」してる時も、びしびしとルアーを投げ込んでいた。
ユーコンには、「パイク」という大型のカワカマスの一種、そして「グレイリング」という背びれが大きなマスの一種が棲んでいる。
「釣りバカ」のみなさんは、ご存知でしょう?「パイク」はルアーで大物釣りが楽しめるし、「グレイリング」はドライフライがおもしろい。
「釣りバカ」は、みなこう思う。
「ユーコンで釣りかぁ!いいなぁ!バッかみたいに釣れるでしょう、ねぇ?入れ食いでしょう?ねぇ!デッカいやつが!いいなぁ・・・」
「釣りバカ」の思考回路は、「海外で釣り」=「デッカイのが入れ食い!」なのだ。
だって、私がそうなのだ。
大泉さんが「袋ヒリヒリ」してた川岸には、「い~い感じ」の小さな流れがあった。
私はうひゃうひゃ言いながら毛バリを流してみた。
しかしだ・・・。おかしなことに、いっこもアタリがない。
「ユーコンは、バッかみたいに釣れるから!」
ふたりにそう言った手前、引っ込みがつかず、
「でもまぁ今はね、時間が悪い。釣りはね、時間。」
内心焦りながらも、「釣り天狗」を気取って、余裕しゃくしゃくあっさり竿を置いた。
「ミスター!いくらやってもムダだぜ!釣りはね、時間!」
そう言い残してその場を去った私は、大泉さんのでん部に「使い過ぎはデンジャー」って書いてある虫除けスプレーを噴射して喜んでいたが、それでもミスターは、粘り強くルアーを投げつづけていた。
そして、キャンプ地。
ミスターは、またしてもルアーを投げつづけていた。最初のうちは、私も嬉野くんも、「釣れる瞬間を逃すまい!」と、ミスターに付き合っていたが、どうも釣れない。
そこで「フライでやってみれば?」と、半ば諦め気味に、ど素人のミスターに投げ方だけ教えて、無責任にその場を去った。
すると10分くらいで、ミスターから奇声が上がった。
「釣ったー!」
あのおっさんの喜びようったら、こっちが嬉しくなるぐらいだった。
ミスター執念の勝利である。
しかし、「釣れる」とわかったらもうミスターに用はない。
料理が一段落したところで、
「ここは釣れるぞぉ~、おいミスター竿返せ!」
そうして、大泉さんと連れ立って川岸に下りた。
すると、跳ねてる!跳ねてる!グレイリングが!
「今、ビチャって跳ねたとこに毛バリ投げてごらん」
「どうやって?」
「いいからテキトーに、竿振ってなんとか毛バリ流せ」
「そんなんで釣れんのか?」
「いいから流せバカ」
「よしっ・・・こうか!」
「おお!上手い!上手い!いいとこだ」
「来んのか?」
「見てろ!バカ!来るぞ・・・来るぞ・・・」
ビチャッ!
「来たぁーっ!」
「うわっ!スゲェ!毛バリに一発で食いついた!」
「うははは!簡単に来たなぁ」
ものの数分で、フライ初心者の大泉さんも3匹釣った。
「カナダいいとこ!」
釣りに関しては、ミスターも大泉さんも気に入ったようである。
しかし、まだユーコンの主「パイクさん」を釣っていない。
次週、「鈴井貴之 世界を釣る!~カナダ・パイク編~」で、ミスターが大物パイクに挑む!
さて、今回は、VTRに流れなかった部分を、話しておこう。
嬉野くんの話だ。
ユーコンで猛蚊に集中的に襲われたのは、ミスターと、そして嬉野くんだ。
大泉さんも、まぁ「猛蚊の犠牲者」と言えなくもないが、あれは自業自得だ。
「蚊はカメラに寄ってくる」というのは、ある意味正しかった。
嬉野くんのやられようといったら、実はミスターの比ではなっかたのだ。
人相が変わっちゃったのである。
彼は、割と人の良さそうな顔立ちをしているが、昨夜放送したキャンプ地では、明らかに「15ラウンド判定負け」みたいな顔になっていた。
普通なら、爆笑とともにVTRの中心的な話題になるはずだが、その形相があまりに「凄み」を効かせているので、恐くて笑えない。
「グレイリング飯」をおみまいされた後、さぁテントに入りましょうかという時に、私が、
「嬉野くんが入ってくると、蚊もたくさん付いてきそうだなぁ・・・」
あくまでも軽い気持ちでジョークを言い放つと、彼は、腫れ上がった両目でギロリとぼくを睨みつけ、
「あぁ?じゃぁ、オレは外で寝ろってことかぁ?」
なんつって、我々を震え上がらせたのである。
「い・・・いや・・・そんなつもりじゃ」
「藤村くん!言いすぎだぞ。いくらか金銭を包まないと、彼、帰ってくれないぞ」
大泉さんも精一杯のジョークで応えようとするが、目の前のお方は、「今日のところは10万で手を打とう」なんて本当に言い出しそうだから、あまり笑えない。
「さっ・・・もう寝ましょうか!嬉野さん」
「おう」
「陸に上がったら、なるべくぼくがカメラ回しますから」
「おう」
「おやすみなさい・・・」
「おう」
どぎついオレンジ色のジャージを着込んだコワモテのお兄さんの横で、ぼくは、いつもより体を縮めて、寝袋にくるまったのである。
「でも、なんで嬉野くんばっかそんなに刺されるんだろ・・・オレなんか、まだ2ヶ所ぐらいしか刺されてないけどな・・・」
「なんだい?刺されるのはオレに責任があるって言いたいのかい?」
「えっ!いやいや・・・」
「・・・きっとヤツらは、弱い人間から襲ってくるんだよ・・・」
「あぁ・・・」
「キミ、長生きするよ」
「そうかな・・・」
「良かったね」
「あぁ・・・」
そうしてユーコン2日目の夜は、更けていったのである。
・・・でも、みんな見たいでしょ?蚊に刺されるだけで、人間どれほどスゴイ顔になるものなのか。
多分「ユーコン最終回」に、それは、見れるかもしれない・・・。