書くぞぉ!
「すずむし」と「かぶとむし」の口論から幕開けしたのが、第5夜だ。
思い出してけよぅ。
思いのほか激辛だった「カレースープ」が原因で始まった昆虫同士のいざこざは、「おれたちゃアメンボじゃねぇんだから!」のひとことで幕を閉じたが、実際はあのあともネチネチと言い合いは続いた。
こと「食い物」のこととなると人間、そうすんなりとは終れないのだ。
まして、「腹のおさまりが悪いや!ラーメン食って帰る!」と、口直しのラーメン屋へ立ち寄ることもままならないカナダの山奥だ。
しかし、最後にはかぶとむしも反省した。さすが昆虫の王様だ。すずむしに詫びを入れた。
「まぁオレも大人げなかった。まがりなりにもキミが一生懸命作ったものを、けなしてしまった。ごめんよ」
「いいんだよ」
「もう寝ようか?」
「そうだね」
「怒ってない?」
「もちろん怒ってないよ」
「そうか・・・じゃ、よかった。おやすみ・・・すずむし」
「はい、おやすみ・・・」
「・・・」
「よいしょっと・・・」
「おっ・・・おい」
「ん?」
「な・・・なにしてんの?」
「なにが?」
「キミ・・・なんで『熊撃退スプレー』をおれに向けてるわけ?」
「・・・」
「な!なんで!その熊をも倒す『催涙ガス』をオレに向けてるわけ!お・・・落ち着け!冷静に!ねっ?」
「藤村くん・・・ぼくはいたって冷静だよ。今、冷静に狙いを定めて、このスプレーをキミに噴射してやるんだ。」
「いやいやいや!待て待て待て!寝よう!もう寝よう!ねっ?僕が悪かった!」
「・・・」
「ねっ!」
「藤村くん・・・」
「はい」
「今のうちにみんなの顔をよーく見とけよ・・・見れなくなるんだから」
「あ・・・」
明けて4日目。
ピートのカナディアン・ジョークからユーコンの朝は始まる。
「このカリブーのソーセージは・・・」大泉さんがふれば、
「あぁ、今朝早く起きて、カリブーを獲って、んでソーセージ作った」と即座にボケてくる。
放送じゃカットしたが、その後も、
「このソーセージいくら?」
「10万ドル(1千万円)」と平気な顔で答えていた。
「絶対、日本語知ってんじゃねぇか?」我々は全員、疑いの目を彼に向けていた。
たぶん、ピートはリトルサーモンに到着したら流暢な日本語で、こう言うだろう。
「ども!お疲れさんでした!」
さて、4日目のメインは「世界のふしぎ発見!」だ。
軽い気持ちで始めたものだが、私が「スタジオ部分もここでやってください」と言った時点で、クイズ番組は、ものまね番組に姿を変えた。
しかし、大泉さんは天才だ。
ひとりでミステリーハンターから、司会から、回答者から全部こなす。スタジオだろうが、正解VTRだろうが、画は全部大泉さんのワンショットだ。もちろん、台本なんかないぞ。あの場のアドリブだ。
「大泉さん!すごい!」
みんなで褒めると、彼は調子に乗って、ことあるごとにクイズを出題してきた。全部で4回。
そうなのだ。放送では「船」と「焚きつけ」の2回だけだったが、彼はあと2回やっている。
もう長過ぎて「カット」だ。
そういえば、「野々村くん」も出ていた。意表をついて野々村くんが、正解だった。
「見たい!」と思うな。野々村くんは全然似てない。
大泉さんの「首」の話もしておこう。
「対決列島」体操ブラザースの前枠で「コルセット」を巻いた大泉さんが登場し、
「おっ!やったか!カヌーですな!」
と、みなさん、心配というより期待を寄せていただろうが、実は「派手な事故」で痛めたものではない。
4日目の「カヌー・カメラ」に映る大泉さんは、幾度となく首をさすり「ダメだ・・・」とため息をついていた。
どっかでひねったのか、それとも慣れない姿勢が首に負担をかけていたのか定かではないが、帰国後、病院へ行ったら、それなりに症状は重かったらしい。
そこで大泉さんの身を一番に考える私は、「無理をするな」と首をさすってやり、これ幸いとパドルを奪い取った。
やっぱり「夢」だったから。ユーコンでカヌーを漕ぐのが。学生時代からの夢だった。
しかしだ・・・。正直な感想を言おう。
「10分で飽きた。」
あのね・・・「カヌーを漕ぐ」という「楽しさ」ならば、日本の川の方がずっと「おもしろい」。
ユーコンの流れは、予想以上に速かったけど、「広すぎて」スリルが全く無い。
まったくもって「安全」だ。
そのむかし、カミさんを前に乗せて、四万十川を下ったことがある。その時、カミさんは激流の中、体が1mぐらい空中に吹っ飛び、悲しい顔で水中に没し、そのまま2キロぐらい流れて行った。
たいへん盛り上がったが、カミさんはそれ以来、NHKあたりで「日本一の清流・四万十の夏」なんて番組があっても、おびえた顔でチャンネルを変えてしまう。
それに比べたら、ユーコンは人畜無害。熊谷さんも言っていた。
「子供と下るには、本当に良い川です」
その通りだと思う。
ユーコンの「本当の素晴らしさ」は、そこにある。
子供といっしょに、のんびりと、釣りをして、火を焚いて、ごはんを作り、テントで寝る。
「男のロマン」というより、「人間としての正しい姿」を子供に見せてあげられる場所。それがユーコンの本当の姿ではないか、私はそう思った。
しかし・・・そんな安全な川で、私は、あっというまに「激突」をかました。
まぁたいしたことはなかったが、それは「私にとって」ということであり、ミスターにとっては、少しばかり「たいしたこと」だったようだ。
「ミスター」=「泳げない人」→「川に落ちる」=「死んじゃいます」なのだ。
こればかりは、いかほどの「恐怖」なのか。川で育った私にはわからない。
しかし、その翌日・・・。
「あの事件」で、ミスターの緊迫する顔を見て、彼の「恐怖」が少し理解できた。
「子供とユーコンへ行こう!」と思っているあなた。
「お子さんは、泳げますか?」これ大事!