「最終回」に間に合ったぞ。
書いたぞ!第6夜だ!読むのだ!
4日目。キャンプ地まで20キロ。
おっさんカヌーが、全速全開でがしがし進むところから「第6夜」がスタートした。
ミスターが嬉々として漕ぐ、その表情が印象深かった。
「6時までに到着!」なんて、特段意味のない目標でも、そういうものがあれば、あのおっさんは頑張る。そういう私も「ミスター!休むな!」なんて頑張る。
おっさんは、元気なのだ。
そうして、おっさんカヌーは、1時間で20キロ以上を漕ぎたおし、見事6時にキャンプ地到着。
着岸。
大泉さん&嬉野くんの「ボート・チーム」は、先に上陸して、我々が来るのを待っていた。私が後ろに乗っているので、嬉野くんもカメラは回さずに、着岸を見守っていた。
あそこの岸。ちょっと崖になっていて、流れは意外と速い。
おっさんカヌーは、ゆっくり岸に近づいて、ガガガガーッ・・・ガシッと、岸にぶつかった。
すると、そのちょっとした反動で、カヌーは再び、速い流れに乗り出してしまった。
「あぁっ!ミスターッ!」
ミスターじゃない。後ろのおまえがなんとかしろ!自分ながらに思ったが、岸にいた嬉野くんたちが反応できないほど、おっさんたちはえらいスピードで流れ去った。
「やややや!このままじゃヤバイぞ!」
ふたりはもう必死だ。
画面じゃわからなかっただろうが、回転して、もう一度着岸するまでに、ずいぶん流れた。
「ミスター・・・木つかめ!」
なりふりかまわず、来年四十のおっさんが、ぬわっと手を伸ばす。
「つかんだか!」
「つかんだッ!」
バキッ!
「あっ!」
もう、オチの王道だ。枝はあっさりと折れて、おっさんたちは、再び猛スピ-ドで流れ出した。
「あぁあぁ!ダ・・・ダメだってぇ」
「ミ・・・ミスタぁーッ!」
ミスターじゃない。おまえがなんとかしろ。
・・・おっさんたちが、こうも無邪気に川に翻弄される。カヌーというのは実におもしろい乗り物なのである。
4泊目のキャンプ地に到着。
我々は、前日から「いかに素早くテントを立てるか!」という、これまたどうでもよいことに情熱を注いでいた。
別に「番組的なイベントとして」ではなく、あくまで「退屈しのぎ」だ。それが証拠に、前日はカメラを回してない。それでも我々は「GO!GO!GO!」と叫びながら、えらい気ぜわしくテントを立てていた。
それぐらいしないとヒマで死んじゃうのだ。
で、誰がなんの根拠で言ったか定かでないが、「目標は3分」ということだった。
前日の記録は4分38秒。
この日の結果は、のろまなすずむしのせいで4分15秒だった。
目標まで「1分15秒」。あまりにも大きな壁!
大泉さんは、居残りで「ペグ100本打ち」の特打を自ら志願した。
さぁ残るはあと1泊。果たして3分を切れるのだろうかッ!
・・・って盛り上がっているのは、「ヒマな我々」だけだ。
よって、最終チャレンジは、先に言っとく。「カット」した。
「カット」したが、せっかくなので、結果は次回、報告しよう。
さて、いきなり始まった「荒々しい」シリーズの話だ。
あまりにいきなりで、「おもしろかったけど、あれはなんだったのですか?」という疑問がなきにしもあらず。
ではなぜ、大泉さんは「荒々しい」を撮りたがっていたのか?それには、ちゃんと前フリがあった。
その日の午前中のことだ。
大泉さんは、首を痛めながらも、必死に漕いでいた。
そんな大泉さんの姿を見て、熊谷さんがひとこと言った。
「タフですねぇ・・・」
すると、そのフレーズがよっぽどお気に召したのか、
「藤村くん!今の言葉、絶対に予告編に入れろよ!」
「よ・・・予告編に?」
「あったり前だろ!おれが、こう必死に漕いでる画に、熊谷さんの『タフですねぇ』って言葉をかぶせてさぁ・・・わかるだろぉ!」
大泉さんは、興奮気味に予告の売り込みを始めた。
「いや!どうせならオレが森の中かなんかで、こう・・・荒々しく体を洗ってるような画に、『タフですねぇ』の方がいいな」
「草かなんかで体をゴシゴシと・・・」
「そう!それだよ藤村くん!」
「それ、どっかで聞いたことあんなぁ・・・」
よっぽどのマニアの方でないと覚えてないだろうが、「十勝二十番勝負」の時に出てきた大泉さんのホラ話に、確かそんな場面があった。
大泉さんが、とある山小屋で、草を乱暴に鷲掴みにして、その逞しい体をごしごし洗っていると、チャタレイ夫人という未亡人がやって来た。彼女は、大泉さんの、その荒々しい姿に欲情し、ふたりは禁断の恋に落ちたという情熱的な話だ。最後ふたりは、JR内子線に乗ってどっかに逃げたとか、そんな結末だった。
「チャタレイ夫人を恋の奴隷にしてしまうほどの大泉さんの『男ぶり』を、この際、全道にアピールしたい!」
というのが、あの「荒々しい」シリーズの、まぁ目的だ。
しかし、こっちとしては、そんなことイチから説明するのもあほらしいので、いきなり視聴者の眼前に、大泉さんの「ぱんつ一丁」を、乱暴に放り投げてしまったというわけだ。
「先生、サングラスして・・・」
「サングラスしてって・・・おかしくねぇか?」
「ぷはーッ」
怪しいサングラスにびしびし水が跳ねる。
「荒々しいねぇ!」
毎度のことだが、カナダまで来てなにをしてんだ。
その後、大泉さんも川で髪を洗った。我々も洗った。
「4日ぶりに髪を洗う」それも「きりきりと冷たい川の水で洗う」ということが、どれだけ人を気持ちよくさせるものか。
頭が、さっぱりし過ぎて、軽くなった。気分も軽くなった。温かい川風が髪を乾かしてくれた。
あの夜、ミスターに限らず、全員が「ユーコンはいい!最高だ!」と思った。
「キャンプが嫌い」。だから「罰ゲーム」。
そういうふれこみでスタートした旅だから、全くもって「楽しむ姿」というのは、視聴者の期待を裏切ることになる。
しかしながら、「良いものは、良い」「楽しいものは、楽しい」。
「ユーコン、くそくらえ!」
大泉さんの最大限の褒め言葉だ。
いい夜だった。
「ユーコンは平和ですねぇ・・・」
ようやく薄暗くなり始めた川面を見ながら、ポツリと思った。
・・・しかし、翌朝。
大泉さんは、なにやら不吉な夢を見た。
我々D陣ふたりが、大泉さんの想い出の場所を次々と爆破するというなんとも物騒な夢だ。
「どういうことなんだろうね・・・」
ユーコン最終夜。
大泉さんの身になにかが起きるのか!
「初恋の夢」を見たミスターは、大丈夫なのか!
ゴール・リトルサーモンまで、あと50キロあまり。
残るは1泊2日。
ユーコンは、最後に、ふたりに何をしようというのだろう・・・。