「5周年記念!札幌−博多 深夜バスだけの旅」第2夜・最終夜

藤村 | 2001.12/20(THU) 18:00



今回の企画。

「バスに3回乗るだけ」

そのために、

「4日間ものスケジュールを押さえてロケを敢行する」

これはもう明らかに「愚行」である。

 しかしながら、このような愚行を敢えて実行に移したのは、私の中に「もうひとつ別の目的」が浮かび上がったからである。

 それは、

 「このバカげた企画を、それを立案した当の本人が、ひとりで実行する」

 つまり、

 「ミスターを騙して、ひとりでバスに乗せる」

 それであった。

 「史上初!ミスター大いに騙される!」

 しかしまぁ、それだけじゃ企画はもたない。

 そこで、追走する車内では、賑々しく、ちょっとお酒でも飲みながら、ミスターを乗せた深夜バスを肴に、「5周年記念!懐かしのVTR一挙公開!」みたいな感じで、総集編のトークでも収録しようか、と考えておりました。

 「さぁ!大泉さん、5周年ということで、今宵は、お酒でも飲みながら、想い出話に花を咲かせましょう!」

 「なるほどなるほど!そりゃめでたい!」

 「ところで・・・アレッ?ミスターは?」

 「おいおい藤村くん、ミスターはあっち」

 「おっ!バスの中かぁ!忘れてましたぁ!うはははは!」

 「ささ!ミスターの想い出話は、次のサービスエリアで聞くことにいたしまして、こちらは賑々しく・・・」

 なんてな構成にする予定であった。

 当たり前だろう。どこの馬鹿が、バスに乗るだけで番組作れるなんて思うかよ。

 それが証拠に、「どうでしょう5年間の企画一覧」とか「主な事件一覧」「深夜バスとの戦いの歴史!」なんてフリップを山ほど用意してた。

 
 しかし、青森で事態は急速に変わってしまった。

 
 予定どおり大泉さんを追走者に呼び入れ(森でノックアウトなんて、単なるこじつけだ)、ミスターひとりをバスに送り込んだ後、衝撃のメールが届いた。

 「途中下車なし!」

 慌てたぞ。予定に狂いが生じた。

 「つまりミスターに会えるのは9時間後!」

 くっ・・・9時間!

 3時間ごとにインパクトのあるお顔で、番組に華を添えるべきミスターが、なんと!東京に着くまで、一切登場しないというのだ!

 「こ・・・これはなんとかせねば!」

 車内はお祝いムードから一転、ミスターの安否を気遣う重苦しい雰囲気に包まれる。

 こうなってしまっては、今さら「5周年記念!懐かしの!」なんつって、フリップをやおら取り出し、「ささ!想い出話を・・・」というのも、ちょっとタイミングが悪い。

 「こうなったら、次の乗務員休憩のチャンスになんとか・・・」

 「顔ぐらいは・・・」

 車内は、とりあえず状況を見つつ、「次のサービスエリアまで待機!」ということになる。

 すると、「じゃ、とりあえず寝て待つか!」「だな!」という結論になる。

 となれば、もはや想い出話要員「しゃべりの達人・大泉先生」も、車内を狭くするだけのやっかいものに成り下がる。

 「おいなんだよ・・・コイツがいると狭くて寝れねぇなぁ・・・」

 私は、やつの寝姿を横目に見ながら、

 「残念だけど大泉くん・・・こうなったらキミも明日はバスに乗ってもらうよ。」

 そう決断してしまったのだ。

 東京駅。

 「大泉さん言ってましたよ・・・今日は、僕もはかた号に乗ります!って」

 「えっ?そうは言ってませんよ」

 「言ってました。」

 「いや・・・」

 大ウソついて無理やり話の流れを作り出そうとする私に向かって、彼は、まったく素のリアクションで、「そんなことは言ってないなぁ」と首をかしげた。

 信じられなかったのだろう。

 「今回の目的は、ミスターの騙しだ。今回ばかりは、大泉くんの味方だぞ!」

 追走車の中でがっちり握手をかわしたのはほんの数時間前だ。

 その男が、今、手のひらを返して「おまえもバスに乗れ」と言っている。

 結局彼は、さほど大きなリアクションも取れないまま、「はかた号」乗車を甘受してしまった。

 大泉さんにしてみれば、

 「くそっ!あまりに不意を突かれた・・・しかし、まぁ乗るのもしょうがないか・・・」

 そんなところだろう。

 もしかしたら、気持ちのどこかに「ミスターだけにおいしいところを取られるのもシャクだしな」というケチな性分が、頭をもたげたのかもしれない。

 そうだとしたら、その代価は、かなり大きなものだった。

 
 「はかた号」。諏訪湖サービスエリア。

 彼は、またまた不意を突かれることになる。

 「ここでお2人の姿を見るのは、最後になりますけど・・・」

 「はぁ?」

 なにを言ってるのか理解できませんが・・・という顔だ。

 「だって無理ですよ。博多まで追っかけるなんて・・・」

 
 なんと、追走をここで終了すると言うのだ。

 すべての根底を覆すこの言葉に、彼は返す言葉を失った。

 そりゃそうだ。

 だってこの企画、「甘んじてバスに乗る」のも、すべて「追走するカメラ」があるからこそ、ギリギリ納得してやっている企画だ。

 その日の朝、「はかた号」に乗ることを、さほど抵抗もせず受け入れたのも、

 「俺の絶品のやられっぷり!そのカメラであますところなく映し出せッ!頼んだぞ嬉野くんっ!」

 そんなバス芸人魂が沸々と湧き上がったからに他ならない。

 それをなんだ、追いかけるのも止めると言うのか!

 それじゃ、ただただ「ミスターとふたりで、バスに乗って博多へ行く」、それだけの行為で終ってしまうじゃないか!

 さらにD陣は、名古屋で一泊し、飛行機で博多に先回りするという。

 「おかしい!どう考えてもおかしいじゃないか!」

 しかし、彼に反論する暇はなかった。

 「でも大泉さん、もう行かないと・・・」

 「行かないと」って、ミスター!カメラ映さねぇってんだから、もうバスに乗る理由はひとつもないじゃないか!あんた!疑問はないのかっ!

 なかったんだろう。

 「3回バスに乗ること」。彼にとって、その行為自体が目標であって、そこにカメラがあろうがなかろうが、それは重要なことではない。

 「バス乗りのプロ」。その第一人者として誇り。

 「大泉さん、残念!残念です大泉さん・・・ホテル取ってたのに・・・」

 崩れ落ちるように「はかた号」に消えていった大泉さん。無念だったでしょう。

 恨めしそうな顔で、車窓にへばりつき、こちらを睨みつける大泉さん。その眼下には誇らしげな「HAKATA」の文字。

 KAの上が大泉さん、TAの上がミスター。

 私は一生忘れないだろう。

 ゆっくり諏訪湖サービスエリアを出て行く「はかた号」。

 その窓に、びったり張り付いていた大泉さんの顔を。

 先ごろ日本一の興行収入をあげた「千と千尋の神隠し」。それに声優として参加した大泉さん。ローカルの枠にとらわれず、全国放送にも顔を出す大泉さん。北海道のCM王・大泉さん。

 私は一生忘れないだろう。

 「はかた号」の窓に映る、赤い小さなランプ。

 あれは、暗い車内で、それでも大泉さんの顔をなんとか記録しておきたいと願うミスターが、必死でカメラを回していた、その録画ランプだ。

 株式会社クリエイティブオフィス・CUE代表取締役社長として、多忙な毎日を送るミスター。先ごろ映画監督として、遂にその第一歩を踏み出したミスター。

 そのふたりが今!あろうことかッ!12時間もの長い時間!まったくのほったらかし!

 まさしく!「野放しタレント!」

 放送を見た巣のディレクターは言った。

 「あれ、ミスターとか怒んなかったの?」

 「怒るもなにも、バスはすぐ出ちゃったからねぇ」

 「あぁ・・・」

 「うん・・・」

 「すごいね・・・」

 「うん・・・今、こうして見るとひどいよね」

 「ひと事みたいに・・・」

 ありがとう!ミスター。ありがとう!大泉さん。

 早朝の佐波川サービスエリア。ちゃんとカメラを回してましたね。

 「大泉さん・・・あの2人・・・やっぱり、いません」

 野放しタレントの悲哀がストレートに伝わってくる名言です。

 でも、放送を見て、ちょっと恥ずかしそうに、ミスターは、こう言いましたね。

 「いやぁ、あれだけしかVTR使ってくれなかったんだ・・・いや!別にいいんですけどね」

 そうです。ふたりは延々10分近くも、サービスエリアでボソボソとお話をしていました。

 その会話は、「なぜ今こうして、ぼくらふたり、山口県のサービスエリアでカメラを回しているんだろうか」そんな疑念がありありと伝わる内容でした。

 「鈴井さん・・・足の方は大丈夫ですか?」

 「えぇ、まぁ・・・なんとか」

 社長の体を気遣う雇用タレントの優しさ。テレビで放送されずとも、私は見ました。

 札幌の大通りバスセンターを出発して4日目。博多駅福岡交通センター。

 長い旅を終えた2人のお言葉。

 「これは、オレの体力測定だ!」と息巻いていたおっさんは、「いやぁ!まだまだ大丈夫でしたぁ!うはははは!」と、すがすがしい笑顔を残し、一方で、そんな愚行に付き合わされた男は、しかし、気丈にも「僕は、騙され続ける人でありたい」と、悟りを開きました。

 そうして「水曜どうでしょう」は、またいつもの4人で、6年目に入りました。

 さて明日は、「深夜バス乗車までの時間」我々はなにをしていたのか?ちょっとしたこぼれ話しをご披露しましょう。

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