もうすぐクリスマスだ。
子供たちは、その日が楽しみでしょうがない。
もちろん、サンタがプレゼントを持って来てくれるからだ。
今でも、きっちりサンタを信じている。
クリスマスツリーには、子供たちが書いた「サンタ宛て」の手紙がぶら下がっている。
今年は、自分はこんなにいい子だった。だから、ハリーポッターのレゴを下さい。サンタさん、寒い中たいへんですね。レゴは、大きなお城のやつです。高くてごめんなさい。
まぁ、そんな手紙だ。
「いつまで信じてんだろうか」
「学校の男の子たちから、ずいぶん馬鹿にされたみたいだけど・・・」
一番上の娘は、小学4年生。「さすがにもうそろそろ・・・」と思うのだが、いまだに信じて疑わない。
それには、ひとつの理由がある。
彼女は、「サンタなんていないんだよ!」そう言う男の子たちに向かって、こう言うのだ。
「だって!ウチのお父さんは、サンタさんに会ったことがあるんだもん!」
確かに会ったことがある。
フィンランドで、やけに日本の地名に詳しい、巨体のサンタに会った。
そのサンタに「プレゼントは何がいい?」って聞かれた20代後半の男は、「ハンバーグ!」と答えて、視聴者の笑いを誘った。
「じゃぁキミは?」
不意に同じ質問をされた四十に近い男は、思わず「ミー・トゥー(おれもハンバーグ!)」と答えて、失笑を買った。
3年前、「ヨーロッパ・リベンジ」での出来事である。
あの時、ロケから帰った私は、ちょっと自慢げに、子供たちにそのサンタの写真を見せた。
「ほ~ら!これがサンタさん!」
「うわっ!スゴイ!」
「こんな顔してんだぞ!」
「あっ!メガネかけてる!」
「すごく大きい人なんだね!」
以来、我が家の子供たちの「サンタ像」は、「メガネをかけた巨大なおっさん」として確立された。
そして去年。クリスマスを前にしたある日のこと。
一番上の娘が、ちょっと不思議そうな顔をして、私に質問した。
「サンタさんって、エントツから来るんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃ、ウチはあの穴から入って来るの?」
我が家には、壁にサッカーボール大の穴が開いている。煙突に通じる穴だ。いつか薪ストーブを買いたいと思って、なかなか買えず、今は穴だけがポッカリと開いている。
「そうだね。あの穴から」
「小っちゃくない?」
「あっ・・・」
確かにそうだ。穴の直径は約30センチ。どう見たって、「巨大なメガネサンタ」が這い出て来るには無理がある。おとぎ話にもほどがあるというものだ。
「えっとねぇ・・・」
困った。しかし、ここはふんばらないといけない。子供たちに、サンタの写真まで見せて信用させたのは、私だ。
せめて、自分で気づくまでは、夢を見せてあげたい。
「ほんとうにこっから入って来るの?」
「入ってくるよ」
「どうやって?」
「どうやってって・・・。じゃぁ、こうしよう。この穴に今夜から、サッカーボールを詰め込んでおこう。サンタさんが、本当にこっから入って来たら、ボールが落ちてるはずだろ?」
「そっかぁ!」
その日から、子供たちは毎朝、ボールが落ちてないか確認していた。
そして、クリスマスの朝、
「ボール!落ちてた!」
私の寝ている布団の上で、子供たちが飛び跳ねた。
「やっぱり来たんだ!」
「来た!来た!」
「ちゃんとエントツから来たんだ!」
巨大なメガネサンタは、「魔法で小さくなれる」。子供たちは話し合いの中で、そんな結論に達したらしい。
そして今年。
「また、ボール入れとこうね!」
小学4年生になった長女は、とても楽しそうに言った。
ミスターにも一人娘がいる。
ミスターは、「サンタ問題」に対し、もっと直接的な対応を取っているらしい。
毎年、「自分がサンタになって、子供の前に現れる」というのだ。
イブの夜。ミスターは、ビシッとサンタの扮装をキメて、こっそりと外へ出る。
そして、頃合を見計らってインターホンを押す。カメラ付きのやつだから、小っちゃなモニター画面に玄関先が映る。
「ホラ!今年も来たわよ!」
副社がいそいそと娘を手招きして、その小さな画面を見せてあげるそうだ。
ザラついた画面の中で、陽気なサンタが手を振り、そしてプレゼントを置いて、雪の中を去って行く。
その間、副社は決して、娘を玄関には連れて行かない。
ミスター夫妻は、そんな見事な連係プレーで、娘に毎年「モニター越しのサンタとの面会」を演出しているのだ。
「なるほどねぇ・・・」
扮装好きのミスターらしい「サンタ対策」である。
でも、去年。
そんなミスターサンタに事件が起きた。
「ホラ!来たわよっ!」
副社がいつものように手招きすると、子供は「待ってました!」とばかり、一直線に玄関に向かって走り出してしまったのだ。
「あっ!」
副社が追いかけた時は、もう遅かった。
子供にしてみたら、そりゃぁ毎年ノコノコと玄関先に現れて、陽気なパフォーマンスを繰り広げるサンタに、小さな画面越しではなく、「直接会いたい」と思うのは当然のことだろう。
で、不意を突かれたミスターサンタは、それでもあわてて雪の中を転げ回って逃げたという。
「子供が、いつまでサンタを信じるかは、その子供がどれだけ愛されているかによる」
少し前、新聞でこんな言葉を目にした。
今年も、ミスターはサンタに挑戦するんだろうか。
多分去年より「危険な状況」に陥ることは間違いない。
子供を愛する気持ちは誰にも負けないんだろうけど、そう考えると、彼の行動は、ちょっと軽率だったかもしれない。
ミスターサンタの健闘を祈る。
ウチは、今年もボールを転がしておけばいいから楽だな・・・。