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ドラマ制作通信VOL.7

藤村 | 2000. 9/ 9(SAT) 13:49


 ドラマ制作も、時間をかけて着々と進んでおります。

9月7日(水)は、札幌からおよそ1時間半、海の見える某所で、ドラマ前半部のとても重要なシーンの撮影が行われました。

車の中の会話シーン、そして海岸での、ある出演者の超長ゼリフの見せ場のシーンです。

屋外ロケというのは、天候がすべて。

「ピーカンとは言いません、雨さえ降らなければ結構です。どうか神様お願いします!」というのが制作者の願いです。普通は。

しかし、常識知らずの「どうでしょうドラマ班」は、お天気の神様にもかなりな注文をつけます。

「あれだなぁ・・・天気が良すぎるのはダメだなぁ。だって怖い話しなんだからさぁ・・・。こう、雨が降りそうないかにも怪しい雲行きで、昼間でもちょっと薄暗いような、そんな感じがいいなぁ。だからって、絶対雨は降らすなよ。だってカメラがぬれちゃうもの。でも、曇ってても、夕焼けはきれいな赤い色をバキッと出してくれなきゃ困るぞ。見せ場のシーンなんだからさぁ・・・」と、クロサワばりの細かな注文を、天に向かってするのでした。

「おお、藤村くん、それぐらいは大丈夫だ。ビシッと曇るぞ。今日は。」いつものようになんの根拠もない言葉で、嬉野くんが答える。

「でも、予報では今日は午後から雨だって言ってましたよ。」
「おっ、嬉野くん、雨だって言ってるぞ。大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「そうか・・・じゃぁ、大丈夫だな。よし、出発!」

・・・と、なんの解決にもならない会話をしつつ、我々は「現場」へと向かったのでした。

昼12時。現場到着。

とりあえずメシだ。ということでコンビニへ寄ると、いきなりの「どしゃ降り」。それも、「これは雨じゃなくて滝だ。」というほどのえらい降りようで、前も見えない。

「大丈夫ですか?藤村さん。えらい降ってますけどこれ・・・」森崎くんが問う。
「大丈夫です。だって、これだけ降ってるっちゅうことは、今日ずっと降る予定だった雨を一気に吐き出してるということじゃぁないか。弁当食ってたらやむぞ、この雨は。そして理想の曇り空に戻るというわけだ。」
「いやぁー、なんて前向きな考え方なんだ!」

そして15分も経たないうちに、本当にどしゃ降りはビタッとやんだのでした。

「やんだでしょう?」
「・・・ですねぇ。」
「ちゃんとやむわけ。だって、やんでもらわないと困るものこっちは。」
「・・・ですねぇ。そして、この怪しげな雲。」
「出てるでしょう。だって、ここはそういう雲が出てるシーンなんだもの。」
「すごいなぁ・・・。」

そして、車の走行シーンと、車中での会話の撮影が、理想どおりの天候の中進んだのでした。

しかし、ひとつの誤算がありました。車中での会話のシーン。
出演者が運転席と助手席に座り、それを正面のボンネットに取り付けたカメラで撮る。すると後部座席まで全部映ってしまうので、監督である私は、後部座席の足元に隠れてモニターを見ながら、出演者に指示を出さなければいけない。これは、ものすごくキツイ体勢なわけです。

「いいか・・・森崎くん。これでテイク6だ。もうセリフ間違うなよ・・・。」
「わかりました!がんばります!」
「頼むぞ・・・本当に・・・」
「・・・きついですか?その体勢・・・」
「きついよ。」
「大丈夫ですか?」
「なにがだ・・・」
「顔が青いですけど・・・」
「・・・青いかい?」
「ええ、かなり青いです・・・」

「酔った・・・。」

「酔ったんですかぁ!よーしがんばるぞぉ!監督を死なせるわけにはいかん!」
「・・・いいな、つぎNGだったら僕・・・吐くから・・・」
「おおーッ!すごいプレッシャーだぁ!セリフ間違ったら吐くのかぁ!がんばるぞーっ!」
「いいか・・・僕は今、OKを出しやすい体質になってるぞ。もう冷静にモニター見てられないから・・・」

結局、10回ほどうねうねの海岸沿いの道を往復して、やっとOKを出したのでした。

そうこうするうちに、午後5時半。

夕景の海岸での、ある出演者の超長ゼリフという見せ場のシーンの撮影となりました。

ある出演者とは、この日10回以上NGを出し、私を思う存分痛めつけてくれた「NG男」です。

「いいか、森崎くん。もう5時半だ。見ろ!この夕焼け!そして、この色!またしても理想どおりの天候だ。」
「ですねぇ!いや、すごいなぁ。お天気の神様、言いなりだもんなぁ。」

「しかしだ。もう時間がない。これから30分の勝負だ。陽が沈む直前のこの空の色。この中で、キミの長ゼリフ。見せ場だぞ。」
「いやぁ、プレッシャーだなぁ。」
「頼むぞ。チャンスは1回だ。こんな夕焼けめったにないぞ。」
「ですね!わかりました!やるぞぉ!」

・・・しかし、2分に及ぶ長ゼリフ。それも1カットで押し通す。そして、太陽が沈む直前の、チャンスは1回だけ。これだけのプレッシャーの中では、やはりNG男にも奇跡は起こらなかった。・・・残念ながら、翌日そのシーンだけ撮り直しとなったのです。

帰りの車中での、森崎くんの落ち込みようったらなかったです。

そして、翌日。

天気の神様に、さらに厳しい条件を加えました。

1 きのうと同じような雲をだすこと。
2 きのうと同じような美しい夕焼けを出すこと。
3 そして、きのうと全く同じ風速の風を出すこと。

そうです。なにからなにまできのうと同じ天候にしてくれないと、シーンがつながらないのです。

「いくらなんでも、それは無理です。同じ風速ってあなた・・・。」神様は言うでしょう。
「いいから出せ。」
「全部いっしょなんて絶対無理です。」
「じゃぁ、きのうよりきれいな夕焼けを出せ。」
「出せません。」
「出せっつってんだろぉ、この野郎。」
「無理だっつてんだろう!この野郎ぉ!」

「あと・・・ついでに、森崎くんのセリフも覚えさせてやってくれ。」
「ばかもの。それはオレの担当じゃねぇ。」

お天気の神様も、相当ご立腹の様子でしたが、現場についてみると、なんと!すべてこちらの条件を用意して待っていてくれたのでした。

「ありがとう!神様!」
「まぁ、どうでしょうさんは、よく見てるから・・・」
「そうでしたか!そしてきのうよりさらに怪しい夕焼け!」
「サービスだ。」

条件は整いました。そして太陽が沈む直前。いよいよ森崎くんの、あのシーン。緊張感を持たそう、ということでリハーサルもなしの1発本番。

結果は、見ていたスタッフすべてが、息をのんで引き込まれるほどの、名演技でした。

森崎くんは、すばらしかった。

「ありがとう、神様・・・。やっぱり森崎くんにも力を与えてくれたんですね。」

「いや、おれは何もしちゃいないさ。ただ昨日、夜遅くまでセリフをひとつひとつ紙に書いて覚えていた彼の姿を見たよ。」

「えっ・・・そうでしたか・・・。」

「最後は、そのセリフをパンに書いて、それを食おうとしてたから、それはやめろって言っといた。ドラえもんじゃないんだからって・・・」

「そうでしたか。ありがとう!神様!」

「ハハハ・・・どうってことないって。じゃ、また用があったらいつでも呼んでくれ。でも、この季節に雪を降らせろってのは無理だぜ!じゃ、あばよ!」

お天気も味方につけまくって、ドラマは順調に進んでいます。