「もう・・・もう先生早くシャッター切ってください!」
「う・・・撃ってください!撃ってください先生!早く!」
大泉さんが、バズーカを小脇にかかえてハナジロハナグマを追う後ろ姿に向かって、「撮ってください!」ではなく、思わず「撃ってください!」という言葉が出てしまいました。
決して笑いをとろうとか、そういう気持ちで言った言葉ではありません。
必死だったのです。
6時間以上もジャングルの中を歩き回り、その最後に、たいへん愛らしい顔をした小動物が突如現れた!それも至近距離!
「これはいい写真が撮れる!」
誰もが思いましたよ。大泉さんも必死だ。
ギュイーン。バズーカが天空を突き、大木の陰から顔を出すハナグマに狙いを定める。
が、次の瞬間!
「標的」はこともあろうに下へ降りてくるのだ。こっちへ向かって来るのだ。
直後、大泉さんはバズーカを抱え、標的とは反対方向へ走り出す。
不思議な行動とも思えるが、実は違う。
600ミリ砲の焦点距離は、最低12メートル。つまり、12メートル以上離れないとピントが合わないんだ。
「そんな馬鹿な!近づけば近づくほど迫力のある写真が撮れるだろ!」
そう思いましたよ、私も。
ミスターなんか、ハナグマが目の前を歩いてた。
ミスターにしたら、じれったくてしょうがない。
だって子供の運動会撮るより簡単だもの。
想像してごらんよ。
「よーいドン!」っつって向こうから走ってきた娘が、こともあろうに、ニッコリ笑って、ポーズとっってんだ。目の前でだ!徒競争の最中にだ!
「おとうさん撮って!」なんて言ってんだ娘が。
「ぬぅおおおーっ!撮るぞ!撮るぞ!なん枚でも撮るぞ!おとうさんは撮るぞぉーっ!」
「あなたッ!撮って!早く!早く!」
「ぬわっ!しまった!近すぎる!ピントあわねぇっ!」
「なに言ってんの!いいから早く!」
「ぬ・・・ぬッ・・・ぬわぁーッ!」
「どこ行くのーッ!なんで!なんで後ろに行くのよーッ!いいから撮って!撮って!あなたとってぇーッ」
そんな感じだ。こっちはカメラのことよくわかんねぇから、
「いいから撮って!」だ。
しかし、大泉さんは、ハナグマとの距離12メートルを測りながら、走る。
娘の笑顔を目の前にしたミスターは堪えきれず悲痛な叫びを上げる。
「もう・・・もういいからシャッター切ってください!」
娘だって徒競争の真っ最中だ。いつまでもおとうさんの前でポーズとってたら先生に怒られる。
ファインダーを覗くことすらままならない大泉さんも、ついにバズーカを小脇にかかえたままハナグマに狙いを定める。
中腰だ。いい姿勢だ。腰をぐっと落として、バズーカはへその位置だ。
「撃ってください!」
ドーン!
「撃った!撃った!撃った!撃った!」
もう一発だ。
ドーン!
・・・結果は、ごらんの通り。写ってたのは、葉っぱだ。
どこ撃ったんだか。
ロッジに戻り、疲れた体を休めるヒマもなく現れたのがキツツキだ。
もうこっちは、動物写真の虜だ。目の前に来たやつは、もうなんだって標的だ。むこうだって打ってる。
「撃て!」
ドーン!
んでまた、ジャングルなんかより、ロッジの前で待ってた方がよっぽどいろんな動物がやってくる。
サル。
嬉野くんが、地面にカメラを置いて、三脚を直してる時。その後ろでは、ミスターと私がサルを探して走り回ってる。
「絶対いるなぁ・・・」なんて声が漏れ聞こえる。
視聴者はおいてきぼりだ。だって、地面に転がされてんだもの。映ってんのは、嬉野くんの足と写真家の足だ。
「ななな・・・なんですか?どうしました?このテレビ」
そこに、突如私のうわずった声が飛び込んでくる。
「せせ・・・先生!先生!サ!サルです!サルです!」
「・・・と!撮れ!」
カメラを慌ててひっつかむ嬉野くん!
「お、おいおい!」
見てる方も、嬉野くんに首根っこつかまれたみたいなもんだ。
「い、いやいやいや・・・サルですか?慌ててるけどケツァールではないんですね?」
そうなんだ。ケツァールじゃなくても、あの慌てぶりだ。
そういえば、サルを一発も撃てなかったことを、大泉さん悔やんでましたねぇ。
「サルの写真が撮れなかった」という意味ではなくて。
あんだけ引っぱったんだから、バラエティーの流れとして「結局なんも写ってなかった・・・」ぐらいの「オチ」をつける意味で、一枚ぐらいシャッターを切っておくべきではなかったか・・・と。
でもあの場では、「葉に隠れて姿が見えないサル」には、どうしてもシャッターが切れなかったらしいんだね。
私も編集していて、「あぁ大泉さん・・・一発ぐらい撃っといてくれれば、もうちょっと派手になるのになぁ」なんて思いましたよ。一瞬ね。
そしてインコ。
粉々になっちゃった。
文字通り「撃った」わけ。
そういえば、でも「撮影する」って英語で「shoot」(シュート:撃つ)って言いますなぁ・・・。
そんなことを言ってたら嬉野くんが、むかし東京で遊園地の撮影をしてた時の話をしてくれました。
鉄塔かなんかの上から、遊園地の乗り物を撮影しようとしてたんだって。
そしたら、ちょうど撮ろうとしてる所に外国人の家族連れが、入り込んできた。
むこうはこっちに気づいてないから、カメラマンが大声で、
「シュート!ナウ!」
って叫んだら、横にいた日本人の家族が慌てふためいたそうな。
そりゃそうだ。鉄塔の上から「今から撃つぞ!」って叫んでんだから。
さて、長くなりましたが、次回の放送は5月30日の大相撲明け。
「なんだよ!結局ケツァールどうなったんだよ!」
ごもっとも。
「モンテベルデにもケツァールはいない!?」
「どういうことだ!」
どういうことなんでしょう?
引っぱります。2週間引っぱります。
次回から一気にクライマックスへと登りつめます!