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グッド!モーニング
オホーツク管内・遠軽町丸瀬布(えんがるちょう・まるせっぷ)に、
樹齢およそ70年の、1本のブナの木がある。
自生の北限とされる後志管内・黒松内町(しりべしかんない・くろまつないちょう)より
100キロも北で、周りに幼木も生え、地元の人に大切にされている。
ここは私が生まれ育った懐かしい土地だ。
父は農耕馬を引いて耕し、母は金網でできた籠で、畑から出た石を雑木林に運んだ。
大量の石山は幼い頃の遊び場になった。
雑木林の下は崖で、のぞき込むと吸い込まれそうな勢いで川が流れていたものだ。
当時、父が木材会社の知人から「珍しい苗木だ」とブナを2本頂き、
母と一緒に大切に雑木林に植えたという。そのうちの1本が冒頭の木だ。
その後、町に土地を譲り移住した。
それから60年。父は若くして他界し2年前に五十回忌を済ませた。
一方、現在98歳で老人ホームにいる母は、
苗木を植えた時のことを驚くほど鮮明に覚えている。
この10月、母の日頃の願いがかない、そのブナの木と対面することができた。
見上げるほど立派に育った大木に歓声を上げ喜んだ。
「会えて良かった、ブナの木さん。」
母はしわしわの笑顔で何回も何回もいとおしそうになでた。
木もうれしそうに迎えてくれたような気がした。
母は木の下で小さな体を「く」の字に曲げて、
「押し葉」に、と落ち葉を一枚一枚丁寧に拾い、そっと紙に包んで手堤げ袋に入れた。
すぐそばの崖の下からは、
昔と変わらない湧別川(ゆうべつがわ)の流れる音が聞こえていた。
二十数年前、長男が小学一年生の五月の、ある土曜日の午後のことです。
三歳になる弟の手を引いて「ただいま」と帰ってきました。
その様子が、いつもと違います。
片手を後ろへ隠し、後ずさりして自分の部屋へ入り、机の引き出しを閉める音がします。
「何か隠している」と直感した私は、
「まさか、万引」と、頭の中がパニック状態に陥りました。
部屋の戸を開けるなり「何を隠したの」と、いきなりの罵声(ばせい)。
戸惑いで涙目の息子に「出しなさい!」と追い打ちをかけるように、大声をあげていました。
目を丸くしている次男の横で、
「これ、明日の母の日のプレゼント」と、
涙をポロポロこぼしながら差し出した長男の手には、
一本の赤いカーネーションがあったのです。
日曜日が休日の近所の花屋さんへ、
小遣いの百円玉を握り、弟の手を引いて、二人で買いに行ったのです。
そのやさしい気持ちに、素直に「ごめんね。ありがとう」というはずが、
ボソリと出たひとことは、「行き先を言わないで出かけたらダメでしょ」。
早合点したバツの悪さに、感謝の言葉を失ってしまったのでした。
子育てに完ぺきなどありえないのに、
気負いと焦りの錯綜(さくそう)する日々だった、と、
息子たちが手を離れてしみじみ思います。
母の日がくるたびに思い出す、苦いエピソード。
息子たちにざんげします。
「あの時はごめんね。そして、ありがとう」