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―2014年放送―

2014年10月7日
「握り締めた手 」 田中真紀子(41歳・主婦)=旭川市

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先日の夜、久しぶりに末っ子と歩いて買い物に行った。
手をつなごうとすると、すっと振りほどく。また握ろうとすると、さっと逃げていく。
どうして?顔をのぞき込むと「二年生だから」。
その言葉に思わず笑ってしまった。

 去年の冬、帯広から転校した時、
「僕、一人で行けない」と、ひと月以上も一緒に手を繋いで学校へ通った。
 道端の小石をどけようとして手と手が離れそうになると、ギュッと握り返してくる。
その度に「あせるまい」と思った。
この子の不安が消え、自分から歩き出す時まで、甘やかしていると思われても、構うまい。
 今、こうして手をつなぎ、朝の冷たい風に吹かれ、学校へ通った日々が、
彼のかけがえのない思い出になるだろう。

 そう思ううちに、彼が私の手をほどくタイミングが、少しずつ早まっていった。
校門から五メートル前。次の日は十メートル前。かと思うと、また五メートル前に逆戻り。
 そんな彼に、頑張ろうね、とは言わなかった。
握り締めた手のひらの奥で、彼の小さな自立の芽が、土をかき分けようとしているのだから。
そうして手を握り締めているうちに、ある朝、
「一人で行ってみる」の言葉を残し、駆けて行った。

 あの時、あんなにあせらず、時を待てたのは、
何より私自身が、そのひと時を失いたくなかったからかもしれない。
手を振り払い、歩く息子の横顔を見ながら、そのことに気付いた。 〆