now onair

NEXT

―2014年放送―

2014年10月21日
「母の涙の理由 」 椿原章代(のぶよ)(70歳・主婦)=札幌市南区

画像

94歳の母が白内障の手術をした。かなり前から、あまり見えていなかったらしい。
でも「年を取れば誰でも見えなくなるもの」と手術をずっと拒み続けていたのだ。
 とうとう30センチ以上先は見えなくなり、いずれ失明すると言われ、
やっと手術を受け入れてくれた。

が、いざ手術となると、白内障だけでなく目そのもののダメージが大きく、
2カ所の眼科で、手術をしても失明の可能性は大、と言われた。
 残り少ない人生、失明したらかわいそうだし、介護する私も大変になる。
そんなことを考えながらも、覚悟を決めて手術を受けた。
幸い成功し、よく見えるようになった。

 家に帰ってきた母は、私の顔をしみじみ見ると、ぽろぽろ泣きだした。
よく見えるのがうれしくて、泣いているのかと思ったら、
「あなたがこんなに年を取ってしまったのは、
私が苦労をかけたからね・・・」と涙声で言う。

 そうか、今まではしわやシミが見えなかったので、母の中の私は若いままなのだ。
実際の、しわ顔の私を見てびっくりしたのだろう。

年々年を取り、少しず増えていったしわなので
「年相応なのよ」と、母の責任ではないことを説明し、
夫と「手術しない方が良かったかも」と笑った。

 今では、新聞もよく読めるようになった母の横顔を見ながら、本当にうれしく思っている。    〆