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―2014年放送―

2014年11月18日
「父の夢」  小野崎成子(75歳・無職)=札幌市中央区

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1945年8月、旧満州(まんしゅう)で敗戦を迎え、
私たち家族は兵舎に収容された。

食事は朝夕、コーリャンがゆ1杯と水だけで、幼子は消化不良で弱っていった。
郵便局勤めの父は同僚とソ連兵に連行された。

 9月中旬、荒れ果てた旧官舎に移り、十数家族と共同生活。
はしかがはやったが、医者も薬もなく、学齢前の子どもたちが次々に死んだ。
私の妹3人も。

 11月、満州北部からの列車に男たちが乗っていると聞き、
母は弟と私の手を引きその集団のもとへ急いだ。

やせて髪もひげもぼうぼうの男たちの中に父を見つけるや、
母は地面にひれ伏し
「父さんの留守に子どもたち3人を亡くしすみません」と泣き崩れた。

父は弟と私を見てすべてを察したようだった。

連行された先で父は、こんな夢を見たという。
 「父さん。」
と亡くなった3人の子どもたちの声。
「おまえたち、母さんと一緒じゃなかったのか」。
すると3人は
「母さんたちは日本に帰るの。私たち満州生まれは帰れないの」。
父の肩や腕にすがり、楽しそうに遊び、
やがて「父さん、さようなら」と言って消えたという。
 父は、あの子たちは別れに来たんだと涙ぐんだ。
あれから65年、毎年必ず思い出す父の不思議な夢だ。〆