―2014年放送―
2014年11月25日
「津別峠」 内田サヨ子(当時63歳・農業)=釧路市
夫と2人で向かった津別峠までは、家から車で1時間半ほどかかった。
舗装道路だが、狭い、つづら折りの坂を上って頂上に着いた。
見なれた雌雄二つの阿寒岳の、裏側からの眺めと
紺ぺきの屈斜路湖が目の前に広がり、
斜里岳、摩周岳、そしてはるか遠くに、白く輝く大雪連峰を望む。
その日を境に冬になりそうな寒い日で、
やまやまは、紅葉がこの日で終わってしまうかのように、ありったけの装いで美しかった。
私たち夫婦は、子供らの勧めに押し出されるようにして、小さな旅に出たのだった。
夕方の搾乳に間に合うように帰る約束で。
展望台の店内は人影もまばらでひっそりとしていた。
暖をとるのに夫はコーヒー、私は甘酒を注文した。
ウエートレスさんが運んでくれた甘酒を両手で包んで指をぬくめていると
「今日は結婚40年の記念日なんですよ」
問われもしないのに夫が切り出した。
「辛抱しましたねえ。」
わたしも聞かれもしないのに、カウンターの向こうの笑顔に答えた。
敵は「我慢した」とも言う。辛抱と我慢のたわいもない漫才になった。
40年の歳月は随分早かったような、長かったような気がする。
いろいろあったけれど、なんとか共に歩んでこられたのは幸運だったのだろう。
10年後、またこの地を訪ねたいと思った。
もう一度360度の景色を見渡し津別峠を後にした。 〆