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―2015年放送―

2015年08月04日
2013/08/25掲載 「アイスモナカ 」
神田禎子(71歳)=釧路市

2013/08/25掲載 「アイスモナカ 」<br />神田禎子(71歳)=釧路市

60年近くたった今も、はっきりと思い出す夏の情景がある。

 私は子どものころ
留萌管内の天塩町・更岸(てしおちょう・さらきし)に住んでいた。
街からは離れていたが、当時は湿原が豊かで、
春にはエゾカンゾウやアヤメの花が咲き、美しい風景が広がっていた。

 4年生になった4月、学校に新しい先生が赴任してきた。
背の高い眼鏡を掛けたその先生は、天塩町の中心部から通勤されていた。

夏休みの終わりごろ、私は母に買い物を頼まれ、
2年生の弟を連れて汽車で一駅離れた天塩町の中心部へ出かけた。
子どもだけで出かけるのは初めてだったが、
母に頼りにされていると思うとうれしくて、勇んで出かけたように思う。

 しかし、買い物を済ませてふと気が付くと、
帰りの汽車賃が1人分足りないではないか。
「どうしよう...」。あの時の困り切った気持ちは、今もはっきりよみがえる。

結局、弟ひとりを汽車に乗せて自分は歩いて帰ろうと覚悟を決め、駅の外に出た。

すると私の目に、遠くを行くあの新しい先生の姿が飛び込んできたのだ。
夢中で走り寄って訳を話すと
「もう大丈夫、心配しなくていいよ」と言われ、心の底から安心した。

 先生は、近くの店で私と弟に「アイスモナカ」を買ってくださった。
初めて食べる「アイスモナカ」の甘くて、柔らかくて、クリーミーなこと。

この世にこんなおいしい食べ物があったのかと感激しながら、夢中で食べた。

 あれから、いろんなアイスクリームを食べたが、
あの時のあの味に勝るものに出会ったことはない。