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相棒セレクション 相棒8 #16【再】

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―2016年放送―

2016年10月11日
10月11日(火)放送「あれ、それ 」(2014/12/28掲載)
 岡田和子(おかだ・かずこ 当時76歳・主婦)=札幌市南区

10月11日(火)放送「あれ、それ 」(2014/12/28掲載)<br /> 岡田和子(おかだ・かずこ 当時76歳・主婦)=札幌市南区

夫がめずらしく、「あれが食べたい。食べに行くか」と言い出した。あれって何と聞くと、外側がカリカリで中が柔らかいあれ、と言う。
 なぞなぞ遊びじゃないのに、それだけじゃ分からないと素っ気ない私に、夫はまた同じように、外側カリカリで中柔らかく、かき混ぜて食べるあれ。「あんかけ焼きそばかい?」と尋ねた。違うらしい。
 外カリカリで中柔らかく、白菜のキムチが入った、あれ。また言葉が一つ増えた。
 キムチと聞いて、夫の食べたいものが分かった。「ああ、あれ」「うん、それだ」。まるで漫才のようだが、私たちはまじめに会話している。
 何を食べたいか、お互いに分かったものの、一件落着とはいかない。肝心の料理の名前が出てこない。忘れ物はしょっちゅう。人の名前がすぐ出ない。カタカナ語ときたらまったく覚えられず、すぐ飛んでしまう。そんな日常だが、ついにここまできたか。
 石製の器、ご飯の上に盛りつけてある具も頭に浮かぶのに...。焦る気持ちが私を動揺させ、胸のモヤモヤが晴れないまま、水を飲みに台所に立ち、蛇口をひねった。
 ジャーという水の音に、突然ひらめいた。外カリカリの中柔らかな、あれ。「石焼きビビンバだ」。そう、それだ。夫にも笑顔が戻った。
 夕飯は早速近くの店で、ビビンバをおいしく食べた。めでたし、めでたし。
 別に、めでたくもないか。