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―2016年放送―

2016年11月08日
11月8日(火)放送「笑い」2016/06/05掲載
高野真理子(たかの・まりこ 当時56歳・主婦)=函館市

11月8日(火)放送「笑い」2016/06/05掲載<br />高野真理子(たかの・まりこ 当時56歳・主婦)=函館市

私たち人間にとって笑いは大切だ。どんなことでも笑いがあれば乗り越えられる。
 7年前の4月、病院嫌いの父に大病が見つかり、入院した。回復を願って家族皆で何度も見舞ったが、どんどん弱っていくばかり。6月には、ついに「その日」を迎えてしまった。
 病院の計らいで父は広い個室に移された。亡くなった日も、本人が望むので、皆でとりとめのないおしゃべりをし、入院当初の話になった。父の歯は全部自分のものだったのだが、80歳近い老人がそんなはずないと思い込んだおっちょこちょいの看護師さんが、父の歯を外そうと悪戦苦闘したそうだ。必死に歯を外そうとする看護師さんと、もがく父。その様子を想像し、皆で大爆笑してしまった。
 ふと見ると、父の息が荒い。いよいよかと焦ったが、なんのことはない、父も笑っていたのだ。「いちいち心配されたら、お父さんもあずましく笑えないね」と言って、また大笑い。
 あんな時に不謹慎だっただろうか。私はそうは思わない。あの一瞬、私たちは父を失いつつある悲しみを忘れられたし、父も死への恐怖や体のつらさから逃れられたに違いない。私たちは最後の一家だんらんを心から楽しんだ。
 数時間後、父は「ありがとう」と言って旅立った。口元にはうっすらと笑みがうかんでいた。そんな父の命日が、今年ももうすぐやってくる。