―2016年放送―

2016年11月22日
11月22日（火）放送　「いい夫婦の日」　2014/11/22 (土) 掲載
浅井通江（あさい・みちえ　当時７０歳・主婦）＝札幌市東区

５０年ほど前、私はある地方銀行の窓口係だった。午後３時に玄関のシャッターが閉まると、私の机の上にはその日集金された百円札が山のように積まれた。
　クシャクシャの紙幣を一枚一枚伸ばす。比較的きれいなお札で残りをはさむようにして百枚の束を作り、帯封をかけると札束ができあがる。
　隣の人の机上にもお札の山があった。けれども気がつくと、きれいになっている。隣の人は黙って私の分をガバッと持っていき、処理してくれるのが常だった。もし手伝ってくれなかったら、私は一人居残って、いつまでも帰れない毎日だっただろう。
　また別の同僚に、私の預金をおろしてくれるよう頼んだのに、忘れられたことがあった。その日は遠方から来る友人２人をもてなすつもりだった。見えっ張りな私は「そのお金がないと困る」とワーッと泣きだしてしまった。
　二十歳（はたち）も過ぎた大人だというのに、いま思い返しても恥ずかしい限りだ。その時も隣の人は黙って自分の財布を渡してくれた。「自分の手持ちだけでは足りないだろうから、同僚に借り集めて入れておいた」と、ずっーとずっーと後になって話してくれた。
　大ピンチを救ってくれたことが縁で、私はこの隣の席の人と結婚した。１１月２２日は「いい夫婦の日」。記念日の名の響きに、今も仲良く暮らせることと、夫の変わらぬ優しさにあらためて感謝している。

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