―2016年放送―
2016年11月29日
11月29日放送「若いママ 」 2015/11/03 (火) 掲載
吉田圭子(よしだ・けいこ 48歳・事務員)=札幌市南区
ある日、仕事帰りの地下鉄の中で本を読んでいると、抱っこひもで赤ちゃんを抱いたママが乗ってきた。
人の波に押され、ちょうど私の前に立った。はやりの髪形にした、ショートパンツ姿の若いママだ。
席を譲ろうとすると、「大丈夫っス」とハスキーボイスと笑顔が返ってきた。
「ほんと、大丈夫っス」とさらに大きな笑顔を見せてくれた。
私も笑い返し、再び本を読もうとしたら、何やら鋭い視線を感じる。
隣の席の男性からだ。
赤ちゃん連れのママに席を譲らない、厚かましいオバサンへの視線だ。
さっきのやりとりを知らないのだろう。
とはいえ、いたたまれない気持ちでいると、ふた駅ほどでママと赤ちゃんが降りる気配を見せた。
内心ホッとしかけたその時、ママが私に向かって、少し大きな声で「手伝っていただいて、ありがとうございました」と笑顔で言ってくれた。
手伝うという言葉は、隣の男性にも聞こえただろう。若いママの気遣いに比べ、降りると分かって安心するなんて、ごめんね。
抱っこひもから出た赤ちゃんの両脚が、ぴょんぴょんと上下に動いていた。
私も、娘たちが生後数カ月だったころの脚の柔らかさや温かさ、世話の大変さを昨日のことのように覚えている。
ママさん、赤ちゃん、ずっとずっと元気でいてね。
心の中で呼び掛け、見えなくなる姿を見送った。