―2017年放送―
2017年08月15日
2016/12/02 (金)掲載「走る」 春日節江(かすが・せつえ 96歳・農業)=江別市
昭和20年(1945年)、
当時、旧満州に住んでいた私たち親子は、終戦の混乱に巻き込まれました。
8月9日の昼下がり。
「逃げろ!」と、政府機関に勤めていた夫が自宅に駆け込んできました。
「ソ連兵が攻めてきた」と言うのです。
生後5カ月の次女を私の胸にくくりつけ、
3歳の長女の手をしっかり握りました。
夫は私たちを汽車に乗せて職場に帰っていきましたが、
その帰り際、私たちの顔をじっと見つめて、
「おまえたちが幸せならそれでいい」とつぶやきました。
結局、夫は流れ弾に当たって亡くなったそうです。
夫の最後の言葉は、私の心の支えになりました。
その後、日本に帰るまで1年半ほどの間、
私たちは逃げて、走り続けました。
道に捨てられている幼子、死んだ子どもを背負った女の人など、
見て見ぬふりで走り続けます。
幾たびも死の淵をさまよい、そのたびに、不思議に助けられました。
後志(しりべし)管内・余市町(よいちちょう)の実家にたどり着いた時には、
何日も寝てしまいました。
その後は、子どもの平和な笑いと泣き声の日々になりました。
やがて、勧められて再婚。
いつの間にか96歳になりました。
いまは身の回りを整理する毎日。
幸せか? 夫の言葉が聞こえます。
私は胸の中で手を振って、「ありがとう」と答えます。 〆
【お詫びと訂正】
放送では、新聞掲載日を2016年8月15日と記しましたが、
正しくは2016年12月2日の掲載でした。関係の皆様にお詫びします。