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―2017年放送―

2017年10月03日
2017/01/07 (土)掲載 「ぬくもり」水落千穂子(みずおち・ちほこ 62歳・主婦)=苫小牧市

2017/01/07 (土)掲載 「ぬくもり」水落千穂子(みずおち・ちほこ 62歳・主婦)=苫小牧市

週に2、3度、元気な顔を見に、
83歳の母が入所している施設を訪ねる。

いつもの場所、いつものいすに腰を下ろし、
いつものようにゆっくりと過ごしている。

近寄ると、今日は居眠り。
「おはよう」と声を掛けると、うっすら目を開けた。
いくつになっても、私は母の子ども。
母は私だと気が付くと、いつもとっておきの笑顔で迎えてくれる。

 私は、小さい頃から冷え性で、いつも冷たい手をしていた。
外で雪遊びをして帰宅する頃には、
ほっぺも手も氷のように冷たくなっていた。

年を重ねた母は、今も、
小さい頃のように冷たくなった私の両手を握りしめ、
何度も何度もマッサージしてくれる。
手は冷たくても、心は温かくなる瞬間だ。

 今、母とは、普通の会話が思うようにできなくなっている。
私が聞いたことに対し、正確に口に出して答えることができない。

こうなる前に、もっともっと母と話したいことがあった。
たくさんたくさん母に教えてもらいたいこともあった。
ただ、笑って手を握ることでしか通じ合うことできなくなった。

でも、その表情や気遣いは、昔のままの母だ。
私が帰る頃には、母がマッサージをしてくれた手はポカポカになり、
一緒に元気ももらった。

今日も一日頑張れる。
そんな私と母の、冬の朝のひととき。