―2017年放送―
2017年10月10日
2017/03/13 (月)掲載「ああちゃんと納豆」粟津則子(あわつ・のりこ 66歳・主婦)=北広島市
幼少時代、なぜそうだったのか記憶にないが、
母親を「ああちゃん」と呼んでいた。
いつ頃からか父親の姿はなく、
ああちゃんは、私たち3姉妹を育てるのに奮闘していた。
現代でいうシングルマザーだ。
ああちゃんは、9人きょうだいの8番目に生まれ育った、と聞いた。
小柄だが、働き者で力強い人だった。
私たち3姉妹のご飯のおかずは、わらや薄皮に包まれた納豆一つ。
当時の納豆は、今のパックより量が多かったように思う。
ああちゃんが納豆を丼に移して、
砂糖としょうゆを入れて箸で力強くかき回し、時折たかーく持ち上げる。
その度、3姉妹は生つばを飲み、キラキラとした目で箸を追いかけた。
泡で満たされ、つやつやと光った納豆は、
量も増えたように見えるから不思議!
ああちゃんは納豆を増やす天才なのだ。
ああちゃん、私の心の声、届いていますか。
貧乏が嫌で、いじけきってしまった頭と心で八つ当たりして、
ずいぶん困らせたね。
封印したいとさえ願っていた思い出は、
今、友だちとのお茶会で胸を張って笑いを誘うことのできる、
最高の宝物になったよ。
今日の私のランチは、ホッカホカの白飯と、納豆。
奮発して高価な砂糖を入れたのに、
ああちゃん、あなたを思って涙が混じり、なんだかしょっぱいです。〆