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家政夫のミタゾノ #4【再】

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―2017年放送―

2017年10月24日
2016/04/01 (金)掲載 「門出」小野寺園子(おのでら・そのこ 68歳・無職)=札幌市豊平区

2016/04/01 (金)掲載 「門出」小野寺園子(おのでら・そのこ 68歳・無職)=札幌市豊平区

54年前、私たち家族は上野駅にいた。
父の転勤で、千葉から北海道へ移住するというので、
親戚や知人が見送りに来てくれた。

町なかにも熊が出て、店も少なく不便な所らしいという。
今度はいつ会えるのかと、皆が涙ぐんだ。

 父母と、14歳の私を筆頭に5人の子供たちは、列車に乗った。
着いてすぐにご飯が食べられるようにと、
母は白く大きな電気釜を手荷物に加えていた。

 驚いたのは、青森で青函連絡船に乗る時だった。
列車から降りた人たちは、船の中で少しでも広い場所が取れるようにと、
長い通路を一斉に走るのだ。
あの大きな荷物と、子供5人を連れて走った両親は、
若くたくましかったんだと思う。
無事にスペースを確保できた安堵(あんど)感は、今でもはっきり思い出せる。

 函館で船を降り、まだ揺れる体で列車に乗り換え、
やっと札幌に着いた時には、上野を出発してから一昼夜が過ぎていた。

来てみると、思いの外おおらかな土地柄で、私たちは穏やかに暮らした。

 それから50年余り、北海道新幹線が開業した。
時速200キロ以上で走り、東京には4時間ほどで着く。

スマートな車体にいろいろな人たちを乗せて、
これからまた、多くの門出の思い出が、つくられるのだろう。

空から父母が言っている気がする。
「夢のようだね、人間ってすごい」と。