海の幸不漁に秘策!こんなところで高級魚が!?“広がる陸上養殖”そのメリット、味はいかに?
2025年 6月13日 17:00 掲載
「特オシ!」のテーマは“広がる陸上養殖”です。
海ではなく陸地に作った水槽の中での魚介類養殖が、年々広まっています。
今月1日に解禁となった函館のスルメイカ漁。ところが、多く獲れた船でも数匹どまりと記録的な不漁となりました。
漁師:「こんなの初めてだよ、ゼロ。今週休ませてもらうわ」
市場では1965年の開設以来初めてセリが延期になる事態に。漁の解禁から9日目でようやく迎えた初セリでは、去年を上回る1キロ=8300円の最高値が付けられました。
そして、秋の味覚を代表するサケは昨シーズン、漁獲量が振るわず、祭りが中止になるなどの影響も出ました。
海の異変で漁獲量が減少するなか、いま注目されているのが陸上養殖です。
永山友菜記者:「大きな水槽がずらりとたくさん並んでいます。中を見てみますと、大きな魚が泳いでいます。実はこれ、養殖サーモンなんです」
上川の東神楽町では大雪山系のミネラルが豊富な地下水を使って、3年前から試験的にサーモンの陸上養殖が行われています。海水温の上昇による漁獲量の減少や、漁業従事者の高齢化などの課題を解決しようと、産業ガス大手のエア・ウォーターが手掛けました。
エア・ウォーターサーモン量産飼育グループ紙谷麻里江主任:「陸上養殖と弊社の技術をかけあわせれば、より採算性のとれるような養殖スタイルを生みたいと」
エア・ウォーターが生産する人工海水や酸素を使うことで、稚魚から成魚になるまで通常4年かかるところ半分の2年で育つといいます。年間1万2000匹の出荷を目指していて生育は順調。去年9月には初水揚げできるまでになりました。気になるそのお味は?記者が特別に、試食させていただきました。
永山友菜記者:「身がぷりっぷりで脂も丁度いいです。身がしまっていて、とてもおいしいです」
販売開始に向けた準備は最終段階で、今年度には、東神楽町内の飲食店などに出回ることを目指しています。
サーモンは食卓の定番、全国各地で陸上養殖への取り組みが行われてます。栃木県宇都宮市ではイチゴを餌に混ぜ込んだ「ストロベリーサーモン」開発中です。
広がる陸上養殖、そのメリットは漁業権が不要なので参入が容易、気候変動の影響受けにくいので安定供給が期待できる、水質管理ができるので病原菌や寄生虫のリスクが低い、旬にかかわらず年中出荷できるということがあります。
一方デメリットは、初期投資に多額の費用数千万円から数億円、高いランニングコスト、専門的な知識が必要ということで、出荷できるまでには年月がかかる、採算ベースにのるには容易ではないということがあります。
施設の数を都道府県順にみますと、1位は沖縄、2位に大分、4位には海のない岐阜県と続き、北海道は24カ所で7位となっています。全国740カ所で前年比112%と増加傾向にあります。
どういった種類が多いかと言いますと、1位は海ブドウ、2位はヒラメ、3位は車エビです。
道内でも様々な取り組みが進んでいます。
本吉智彦記者:「いました!いました魚!黒くてまるまる太った、これなんですか」
江別市で養殖されているのはあの高級魚「トラフグ」です。天然温泉や高齢者向け住宅のある施設の一角で、2021年に養殖が始まり、いまでは江別市内や札幌の店に出荷されています。5つの水槽で約2000匹を育てています。ここの特徴は地下から湧き出ている「温泉水」を使っていることです。
ココルク江別のふぐ飼育員・木村正雄さん:「育ちが早い。ミネラル分が多いので、3年ぐらいかかるものが1年半くらいで獲れる」
トラフグに与える餌はオキアミを練り込んだもの。海で育つ天然ものとは違い、海藻や貝類などを食べないため体内で毒が作られないといいます。育ったトラフグは施設内のレストランでもいただくことができます。こちらは全7品のコース料理です。
本吉智彦記者:「てっさをいただきます。ものすごく弾力があって、噛みごたえあります。噛めば噛むほど、フグの甘味が口の中に広がっていきます。(てっちりは)身がほくほくしています。すごいやわらかい。あっさりしているんですけど、フグの旨味が詰まっています」
フグは下処理が必要なため、4日以上前からの予約が必要です。
こう福亭・秋山誠店長:「手ごろな感じで、皆さんもっと気楽に食べに来てくれるぐらいになったらいいなと思います」
道内では、ほかにも道南の福島町では事業化に成功し「エゾアワビ」が町の名産品に。美唄市では、ニホンウナギの養殖に成功。データセンターの排熱を利用した温水で育て、「雪うなぎ」のブランド名で出荷されています。胆振の白老町では、道内初となるホッケの養殖の実験が始まりました。刺身でも安心して食べられることを目指しています。
国内では、意外な企業が陸上養殖への取り組みを始めています。
味噌メーカーのマルコメは、実証実験として愛媛県で「アオサ」を養殖。気候変動でみそ汁の具のアオサの収穫量が減少し、安定供給のため自社で養殖に取り組んでいます。
JR西日本は鳥取県で「サバ」を養殖。人口減少によるJRの利用者減を食い止めるには、地方で雇用を産み出し、地方活性化が必要としてスタート。箱入り娘のように大切に育てたという理由で「お嬢サバ」と命名しました。年間2万匹を出荷し、鳥取からJRを使い大阪などの店にも新鮮なサバを届けています。
実験段階で私たちの口に入るのがまだ先になるところも多いですが、取り組んでいるところが増えている陸上養殖。今後に期待がかかります。