泊原発3号機 再稼働に向けた審査 事実上合格 地元の反応は?電気料金はどうなる?
2025年 5月 1日 16:45 掲載
「これが裏側なんですけど…」
泊原発のすぐ近くで、40年以上続く民宿と食堂を営む、澁田眞澄さんです。
澁田眞澄さん(66)Q食べに来る人も減った?「もう0の時なんかいっぱいあった」
泊原発が停止してから13年、苦しい時間を過ごしてきました。
かつて石炭の採掘が主力産業だった泊村。
1964年、エネルギー政策の転換で炭鉱が閉鎖。
その3年後、原発の候補地に泊村の名前が上がりました。
「重さ190トンの原子炉容器の陸揚げ作業が始まったところです」
1989年、1号機が営業運転を開始。
91年には2号機、そして2009年に3号機が稼働すると、泊原発の発電量は、道内の電力の4割を担うまでになりました。しかし2011年の東日本大震災。
東京電力福島第一原発で未曾有の事故が発生。

澁田眞澄さん(当時53)「今日、北電さんに頼まれて80個ぐらい刺身切ってます。
(泊原発が)止まるっていうことになると、ほんとに死活問題」
しかし2012年5月、泊原発は停止しました。
ーあれから13年ー
運転が停止するまで、原発で働く作業員で、民宿は満室でした。
「停止した時はもう、その2日、3日後にはもう誰もいないですね」
原子力規制委員会山中伸介委員長「私も決定してよいと考えます」
原子力規制委は4月30日、泊原発3号機が再稼働するための新規制基準に、適合しているとする審査書案をとりまとめました。事実上の「合格」を出した形です。
澁田眞澄さん(66)「この村に原発がなかったら、多分誰も住んでないのかなと思うけどね」
経済を原発に頼る村の現状に、疑問を持つ住人がいます。
泊原発から1.5キロほどの場所で、アスパラを育てている農家の滝本一訓さんです。

滝本一訓さん(当時67)「本当はやっぱり原発ばかりに頼らないでやっていければ、一番いいんだよね」
泊原発のために土地を売るなど、協力をしてきたという滝本さん。ただ福島の事故を受けて、考えが変わりました。
滝本一訓さん(当時67)「原発ばっかりに頼るのでなく、やっぱり自立した村に進んでいくべきでないかなと」
村の歳入は、泊原発の固定資産税や国からの交付金の、いわゆる「原発マネー」が多くを占めています。
村には温泉施設などの豪華な施設が作られましたが、赤字を理由に、取り壊されたものもあります。
農家の滝本一訓さん(80)「私から見れば苦労しないお金だから、安易な使い方されていると私は普段から思っています」
村の政策に疑問を持つ滝本さん。泊原発が稼働していないこの13年の間に、泊村議会選挙に挑戦しました。
現在2期目で、議会では、泊原発の問題も取り上げています。
滝本一訓さん(80)「原発が動くのに対しては仕方ないなと思う反面、ああいうことが起きたらこっちも(福島みたいな)目に遭うんだなという複雑な気持ちです」
佐藤裕樹記者「泊原発が再稼働したら、北電は電気料金を値下げすることを検討しています」

こちらは全国の電力大手各社の、一般的な家庭の電気料金です。
北電は最も高く、最も安い関西電力より、35%ほど高い状況です。
泊原発が再稼働したら、いくら安くなるのか?北電は、原発の再稼働による電気料金の値下げ幅について明らかにしていません。
北海道電力・斎藤晋社長「みなさまの関心事項なので、できるだけ早いうちになんらかの条件を設けながら説明したいと思っています」
実際にいくら安くなりそうなのか?脱原発の立場から原子力問題を研究している、NPO法人「原子力資料情報室」の松久保さんに話を聞きました。
松久保肇事務局長「泊原発3号機が再稼働したとしても、おそらく値下げ率は1パーセントいけるか、いけないかぐらいの程度だと思います」
これまでの北電の説明などを基に、松久保さんが試算したところ、泊原発3号機が稼働すれば、火力発電の燃料費や市場から電気を購入する費用が年間379億円減少すると見込まれます。

しかし松久保さんは、一般的な家庭での、電気料金の値下げ額は、1カ月当たり108円に留まると分析しています。
というのも、泊原発3号機の安全対策費について、北電は当初、最大300億円程度と見込んでいました。
しかし敷地内にある断層の活動性の調査が長期化。
全国の原発の中で、最も長い審査が行われていました。
北電は安全対策費として、当初の300億円程度の17倍を超える、5150億円にのぼると見込んでいます。
こうした費用がかさむことなどから、松久保さんは泊原発が再稼働したとしても、電気料金の値下げ幅は限定されると分析しています。
松久保さん「リスクとリターンが全く割に合わないなと思った、100円ちょっとだったら、ペットボトル1本飲むか飲まないかぐらいの程度の差しかない」

すでに原発が再稼働した電力会社の例を見ても、値下げ率は1割を切っています。
去年12月に、女川原発の営業運転を再開したばかりの東北電力は、電気料金の値下げを、2カ月のみに限定した形に留めました。
北海道電力・斎藤晋社長「できるだけの低減、電気料金の値下げに総合的に考えてまいりたいと思っております」
再稼動の前提となる正式な合格は、パブリックコメントなどを経て、今年の夏になる見通しです。
一方、泊原発周辺の防潮堤の工事の完成は2027年3月ごろが見込まれています。
北海道電力・斎藤晋社長「今後運転に向けて世界最高水準の安全を維持するために、絶えず努力していくことが重要だと思います」
北電は2027年の早いうちに、泊原発3号機の再稼働を目指しています。
私たちの暮らしに欠かせないエネルギー、電力。安全との両立が不可欠です。