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“木製戦闘機”造った女性 女学校時代に動員され工場に住み込み 知られざる戦争の歴史を演劇で 北海道

シリーズ「戦後80年 記憶をつなぐ」。かつて北海道で、木製の戦闘機が造られていたことをご存知でしょうか?知られざる歴史を伝える演劇と、女学校時代に動員され戦闘機を造っていたという女性を取材しました。

札幌を拠点に活動する劇団「words of hearts(ワーヅオブハーツ)」。来月の公演に向けて稽古を重ねています。1945年、太平洋戦争末期の北海道。女子学生が動員された、ある工場が舞台の演劇です。

舞台は、江別市にあった木製の戦闘機を造る工場。1994年に、江別市内で工場の様子を記録した資料が発見されるまで、その存在は忘れ去られていました。

劇作家・町田誠也さん(54)
「資料とかも全部廃棄処分されていたので、誰も知らない歴史だった。北海道で演劇とかエンタメの制作に身を置いている者としては、こういうので伝えていく、語り継いでいくのが義務じゃないかな」。

舞台を手掛ける、劇作家の町田誠也さん。当時、木製戦闘機を造っていたという96歳の女性に会うことができました。

星野小夜子さん(96)
「仕方なしに、生きるのはこれしかないんだと、子どもでも思いました。逆らえないし、何も分からないし」。

来月7日に公演を控える、演劇「博士と過ごした無駄な毎日」。太平洋戦争末期、江別市に造られた木製戦闘機の工場が舞台です。脚本・演出を手掛けるのは、俳優で劇作家の町田誠也さん54歳。7年前、友人から木製戦闘機の話を聞いたことがきっかけでした。

提供:江別市郷土資料館
提供:江別市郷土資料館

戦闘機「キ106」。戦況の悪化で材料のアルミニウムの供給が途絶え、日本軍が考え出したのが木製の戦闘機でした。試作品の機体の一部が、今も残っています。

劇作家・町田誠也さん(54)
「劇作家としては興味のある題材ではあったが、戦争を扱う、太平洋戦争を題材にするということに当時抵抗があって。うまくできるのかとか。「江別の郷土資料館まで行って、そこでいろんなエピソードとか当時の状況などをたくさん説明していただいて、自分が思っている以上にドラマチックだったり、ダイナミックなことがたくさんあって」。

木製戦闘機の工場は、JR江別駅からおよそ800m、現在、製紙工場がある場所に造られました。当時の王子製紙の工場を、陸軍の命令で転用したもので、1944年に完成。およそ2.3km離れた場所には、飛行場も造られました。

江別市郷土資料館には、木製戦闘機の部品や当時の工場の様子が分かる資料が展示されています。こちらは「生産計画表」。1945年の1年間で、1000機の戦闘機を造る予定と書かれています。

木製戦闘機は、試験飛行に成功したものの機体が重く、直線的な飛行しかできなかったとされています。結局、製造されたのは3機だけ。戦地に送られることなく、終戦を迎えました。

江別市郷土資料館・佐藤一志さん
「これだけ重いので、回り込めなかった。実戦配備しても、おそらく特攻隊のような使い方しかできなかっただろう。大量生産できなくて正解だったと、言っていた人もいる」。

人員計画表(江別市郷土資料館 提供)
人員計画表(江別市郷土資料館 提供)

当時の「人員計画表」も残っています。学生を含む4085人が工員として働き、そのうち3割が女性だったことが分かります。

江別市郷土資料館・佐藤一志さん
「働き手の男性は戦場に駆り出されている状態なので、国家総動員法という法律もできるくらいだから。『学生の人たちも戦場に行かなくても、戦争に貢献しなさい』という社会だったので、そういう人たちが駆り出されて労働していた」。

劇作家の町田さん。この日初めて、木製戦闘機の工場で働いていた人に会うことができました。星野小夜子さん、96歳。江別高等女学校の3年生だった1944年9月に動員され、終戦を迎えるまで工場の寮に住み込みで働きました。

星野小夜子さん(96)
「一級上の人が、私たちの作業台ではないところでけがをした。手がもげたのではないかと。そんなふうになりたくないと思って、気を付けていた」。

女子学生の頃の星野さん
女子学生の頃の星野さん

星野さんの話から、町田さんがこれまで知らなかったことも分かりました。

星野小夜子さん(96)
「ジュラルミンという板を地図みたいな物に貼り付けて、切ってタンクを造るんです。タンクから水が漏れないように、大きな湯船みたいなところに押し込んで『大丈夫だ』と、そういうのをやった記憶がある」。

北海道博物館展示の木製タンク
北海道博物館展示の木製タンク

北海道博物館に残っている試作品のタンクは木製ですが、実際に造られたのは金属製だったというのです。さらに、成功したとされる1号機の飛行試験についても…。

星野小夜子さん(96)
「バラバラと分解しちゃった。千歳まで行かないうちに。『残念だね』と言って。上から『言うな』と言われて、みんな言えなかった。『飛んだよ、飛んだよ』と言っていた」。

学校で学ぶことを許されず、無謀な木製戦闘機造りに費やした日々。いま振り返って思うことは…。

星野小夜子さん(96)
「飛行機なんていらない。旅客機でいい。戦闘機はいりません。絶対戦争は反対。うちのかわいい孫が兵隊にとられるなんて、考えただけで悲しくなる」。

札幌公演(去年10月)
札幌公演(去年10月)

木製戦闘機の工場で働く3人の女子学生の日常を、時に笑いを交えて描いた舞台。遠い場所の出来事だと思っていた戦争が、空襲によって身近なものとなり、彼女たちに恐怖が襲いかかります。去年、札幌で上演しましたが、地元・江別でも舞台を見たいという声に後押しされ、来月7日、江別での初公演を迎えます。

女子学生役・飛世早哉香さん
「楽しい日常があって、それが壊れてしまうところも含めて感じてほしい」。

女子学生役・袖山このみさん
「戦争は遠いことに感じているけど、『もし戦争があったら』と考えながら、そういうものを我々が渡せればいいな」。

劇作家・町田誠也さん(54)
「同じ北海道の人間として『こういうことあったよね』というのを、みんなが知っている、共有している。誰かが誰かに教える、押し付けるではなくて、当たり前の事実としてみんなが持っているもの、という感じになっていけばいいかな」。

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