シカの増加でヒグマと遭遇する被害が増える危険性?この春のアーバンベア出没傾向と最新対策は?
2025年 5月23日 19:10 掲載
《去年同時期の通報件数を越えるペース》
市街地に出没するクマのことをアーバンベアと呼びますが、札幌でも近年、住宅地近くでの目撃が相次いでいます。今シーズンの傾向です。道警に寄せられる道内のクマの通報件数は、4月は243件で過去5年で最多。5月も22日までで246件と既に去年5月の件数を越えています。また人の被害も今年すでに美唄市で1件発生しています。
《ジーっと動かないクマ…なぜ駆除に》
今月11日、札幌市南区藤野の住宅から1キロほど離れた山林で撮影されたヒグマの写真です。本来なら人から逃げるクマが、近づいてもこちらを見続けていました。人間を恐れない「問題個体」と判断され、駆除されました。このクマは「シカを食べている」という通報が相次いでいました。北海道猟友会札幌支部の玉木康雄さんは、シカを食べるクマの増加は、人間の生活圏に大きな危険をもたらすと指摘します。雑食のクマは、ドングリなどの木の実の他に肉も食べます。近年シカが増加し、クマが容易に捕獲できるようになりました。
■北海道猟友会札幌支部防除隊・玉木康雄隊長「最近どうも札幌市街地近郊で見かけるクマは、やっぱりシカの肉を食べることに慣れている」「エゾシカたちも市街地近郊に大量に生息するようになってしまいましたので、当然クマの生息領域と重なりますよね。そうすると、もういつでも肉が食べられるっていう状態になってくると、クマにしてみると非常に高カロリーのエネルギーを簡単に入手できるわけです。市街地近郊でエゾシカをとらえ、肉を食べようとして土饅頭を作るクマ。これもやはり大きな問題個体のリスクかなとは思います」
《危険な土饅頭が市街地近郊に》
ヒグマには食べきれないエサを土や枝などで隠す習性があり、その埋められたエサがある場所を「土饅頭(どまんじゅう)」といいます。ヒグマは自分が隠したエサに執着するため、知らずに山菜採りなどで人が近づくと、横取りされるのを防ぐために人を襲う危険性があるというのです。
土饅頭の写真を見ても、シカの足などが出ていなければなかなか気づくことはできません。土饅頭を見つけたら、近づいたり写真を撮ったりしている暇はありません。クマがすぐそばに潜んでいる可能性があり、急いでその場を離れなければなりません。
《人に近づくクマの危険性》
そしてもうひとつ注意しなければならないのが「人に近づいてくるクマ」です。クマは本来、警戒心が強く慎重な動物です。しかし近づいても人を恐れない場合、過去に人に近づいたことで美味しい食べ物にありついたという学習をしていた可能性があります。1度、味を覚えてしまったクマはその味に執着し、人に近づいてくる危険性があるのです。
■北海道大学大学院獣医学研究院 坪田敏男教授「本当に一番危ないのは人を全然気にしないで人の方に積極的に近づいてくるクマです」「もしそういうクマが存在するようでしたら、もうとにかくその場を離れて、早く警察なり猟友会に知らせて、そういうクマは排除してもらうっていうことが必要ですね」
危険なクマが生まれてしまう大きな原因は人間側の行動にあります。エサやりは絶対しない。人間の食べ物、飲み物をクマのいるエリアに捨て置かないことが重要です。
《最新の対策「ゾーニング管理」とは》
道や札幌市が導入を進めているものがゾーニング管理です。クマの生息域と人間の暮らすエリアを「クマが棲むコア生息地」「市街地に近い森の緩衝地帯」「農業、果樹園などのある防除地域」「人が住む排除地域」の4つに分けて、クマを守るエリアと排除するエリアを分けます。クマが棲むコア生息地では種の保存のためにクマを保護し、逆に人は不用意に立ち入らない。また必要な場所には緩衝地帯と防除地域の間で下草刈りや電気柵の設置などを行います。札幌市で特に警戒が必要なのが藻岩山、円山、三角山、大倉山付近の、観光客が多く住宅も山の裾ぎりぎりまで密集しているエリアです。札幌市は来月から電気柵の設置工事を始めます。
《市街地でのクマの駆除ルールが変わります》
2018年、砂川市で市からクマの駆除の依頼を受けたハンターが駆除の際に、発砲した方向に住宅があったとして、道公安委員会がこのハンターの猟銃所持の許可を取り消しました。この処分に対して北海道猟友会が反発し、ハンターの発砲の責任を警察や自治体が負わない場合は、各支部の判断で自治体からのクマ駆除の要請を拒否してもよいと支部に通知する事態に発展していました。
■北海道猟友会堀江篤会長「(ハンターが)正義感で出動して、万が一、間違ってしまってそれで銃がなくなる処罰されることは大変なこと」
アーバンベアの被害が全国で増加している事態を受けて、国会では先月、一定の条件を満たせば市街地でも銃の使用を可能とする改正鳥獣保護管理法が成立し、この秋に施行される見通しです。市街地ではこれまで警察官の指示のもとでしか発砲できませんでしたが、今後は一定の条件を満たせば、市町村長の判断で発砲ができるようになります。
■北海道猟友会札幌支部防除隊・玉木康雄隊長「せっかく法が改正されるのであれば、改正された法にのっとって動けるように、各地域の連携をもっと深めないといけないかなと思います」
道民ひとりひとりがクマの知識を持つことで人身被害は減らせます。不幸なクマを生まないように、そしてクマとの共生を目指すために、人とヒグマが安全に暮らせる「すみ分け」を目指していきたいですね。以上特オシでした。