元プロ選手が監督に 廃部の野球部を復活 部員は4人だけ 8年ぶりの甲子園予選大会に挑む 北海道
2025年 7月12日 19:00 掲載
この春、8年ぶりに復活した高校野球部があります。立ち上がったのは、元プロ野球選手。監督と部員4人だけで再スタート。「熱い夏」を追いかけました。
森高校の野球部で監督を務める、吉田雄人さん30歳。
森町唯一の高校・森高校。全校生徒74人の小さな高校です。2017年の夏以降、野球部は活動を休止。2021年に廃部となりましたが、今年の春、吉田さんを監督に迎え復活しました。
吉田さん:「どうせやるなら、一から監督としてチームを作っていきたい」。

森町で生まれ育った吉田さん。小学1年生の時に野球を始め、中学卒業後は小樽の強豪校・北照高校に進学。3年生の時には、キャプテンとして甲子園出場を果たしました。その年のドラフト会議で、5位指名を受けたオリックスに入団しました。
吉田雄人さん(当時):「尊敬しているイチロー選手がいた球団ですので、少しでもイチロー選手に近づけるよう同じチームからスタートしたい」。

しかし、プロに入ってからのほとんどは2軍。在籍した5年の間に、1軍で出場したのは14試合、ヒットは1本だけでした。2018年に、戦力外通告を受け引退しました。
吉田さん:「何か一つでも通用したのか考えるけれど、どれも太刀打ちできなかった印象」。
人生で初めて味わった大きな挫折。引退後は、大阪のテレビ番組制作会社で働きました。2年前、母校の北照高校に誘われ野球部のコーチとなりますが、故郷・森町の高校野球部が廃部になっていると聞き、立ち上がりました。
野球部を復活させたいと町に相談。去年春、地域おこし協力隊員として採用され、放置されていたグラウンドを整備したり、メンバーを集めたりと、奔走しました。
吉田さん:「ずっと野球をやってきたので、野球で恩返しができないかなと。高校野球は周りを勇気づける力があると思うので、何か力になりたい」。
森町教育委員会・葛葉洋平係長:「他の地域から人を呼んで、野球部を復活して盛り上がることは、森高にとっても森町にとってもプラスだと思う」。

今年4月、吉田さんの下で野球をやりたいと、4人の生徒が町外から入学しました。森高校の入学者数は、2014年まで100人以上いましたが、年々減り続け今年は25人。このままだと、7年後には募集停止の基準となる10人を下回る見通しです。地元出身の同級生たちも、彼らの活躍に期待しています。
同級生:「結果も残してもらって、森高校自体の魅力として変えていってもらって、森高校にいろいろな人が入ってきてくれたらいいなと思います」「この町、魅力があるにはあるんですけれど、少ない。野球がしたいと思って来てくれるのは、うれしいです」。
部員は、1年生の4人のみ。自らキャプテンを志望した札幌出身の三上陽斗さん。三上さんと同じ中学校の野球部だった、上出蒼空さん。後志の喜茂別町からは渡部大河さん。そして、八雲町から管井裕哉さんです。
ピッチャーを志して入部した、上出さん。監督の指導にも熱が入ります。
上出さん:「自分の野球人生を変えたり、今までの自分より野球がうまくなれるかなと思って、森高校を選びました」。
吉田さん:「ピッチャー大事ですからね。でも一番甘ちゃんなので、厳しくしています」。
試合出場には9人必要なため、夏の甲子園予選大会には、八雲高校と合同チームを組んで出場します。
三上陽斗さん:「八雲高校さんと連合で出場するので、1勝でも多く勝って先輩方のためにも勝ちたい」。
管井裕哉さん:「1勝するというのもありますけれど、個人の結果を意識して試合に臨みたい」。

八雲町から通う管井さん以外の3人は、町内の一軒家で寮生活を送っています。
渡部大河さん:「こっち側は寝ている場所、こっち側には個人の物が上下分かれて、タンスも個人管理しています。寝る時は、ぬいぐるみが好きなので置いています。これお気に入りで2つ持ってきました。いつも一緒に寝ています」。

吉田さんも寮監として、生活をサポート。家族が住む自宅と寮を行き来する毎日です。
吉田さん:「(寝泊りは)ほぼ毎日です。選手はどう思っているか分からないですけれど。僕がずっといるので、息が詰まっているかも。そんなことないか。なめてるもんな、お前ら」。
夏の甲子園地区予選の初戦は、およそ2週間後。目標は?
吉田さん:「ヒットを打ってほしい、野手には。森高の選手は春の大会で1本もヒットを打てなかったので、森高野球部の選手誰でもヒットを打ってほしい。何年かぶりのヒットになると思うので。ちょっと目標低すぎたかな。ヒット1本とか言っちゃった」。
渡部さん:「どうします?何年かぶりのヒットがホームランだったら」。
吉田さん:「ありえへん。そんな野球甘ない」。

森高校野球部、8年ぶりとなる「夏の戦い」がいよいよ始まります。
先月23日、森高校野球部のメンバー4人が戦いの舞台にやってきました。吉田さんにとっても、監督として初めての甲子園への挑戦です。
吉田さん:「そわそわします。自分で試合やった方が、よっぽど楽です。連合チームですけれど、まずはこの舞台に立てたことがすごくうれしいし、大きな一歩」。
八雲高校との連合チーム「森八連合」。初戦の相手は、甲子園の出場経験もある強豪・知内高校です。
結果は、10対0の5回コールド負け。森高校のメンバーはヒットを1本も打つことができず、悔しい結果で夏の闘いを終えました。
吉田さん:「勝負の世界は厳しくて、試合の中で工夫したらよかった部分はもちろんあるけれど、大半の勝敗を決める部分はこれまでの積み重ね」。
上出さん:「相手が強かったのもあって、緊張しました」。
三上さん:「雰囲気が違くて、のみ込まれました」。
吉田さん:「2年後のきょう、その時に絶対的な自信を持って、絶対的な自力をつけて大会に臨めるように、また頑張っていきましょう」。
吉田さんが夢見る、監督での甲子園出場。夢に近づくため、来年は森高校単独でのチーム結成を目指します。