ノーモアメガソーラー宣言の釧路市 貴重な生物や環境の保護か?再生可能エネルギー推進か?
2025年 7月24日 10:08 掲載
日本最大の湿原「釧路湿原」。
雄大な自然に希少な生き物が住むこの湿原の近くで、いま相次いでいるのが太陽光発電施設の建設です。
釧路市内の施設数は2012年に25カ所だったのが、今年6月末時点で24倍のおよそ600カ所に急増しています。
こうした状況を受け釧路市は先月、全国で2例目となる「ノーモアメガソーラー宣言」を発出。

しかし先月の市議会である”問題点”が指摘されました。
木村隼人・釧路市議「釧路市には全国の傾向と異なる大きな特徴がある。それはノンFITの多さです。ノンFITは再エネ特措法の適用外となっています。つまり廃棄と積み立ての準備が国も市もできていません」
FITとは国が再生可能エネルギーの普及を促進するために導入したもので、再生可能エネルギーで発電した電力を電力会社が国の定めた価格で一定期間、買い取る制度のことです。
太陽光パネルの生産コストが下がり、買い取り価格は年々下落。
今年度は1キロワット時あたり8・9円で、ノンFITの方が事業者が電力会社と直接契約内容を交渉するため売電価格が高くなる傾向があります。
しかし、太陽光パネルの「廃棄費用の積み立て」が義務付けられていないため2、30年後、耐用年数を終えた太陽光パネルがきちんと処理されず、その残骸で、湿原周辺が埋め尽くされる可能性があるのです。
この問題にどう対処していくのか。

釧路市環境保全課西村利春太陽光発電対策主幹「9月定例会で提案予定の条例においては、FIT法の非適用事業者も含め、事業者に対して廃棄費用の積み立てを義務付けることとしております」
先月、釧路市は条例の素案で事業者に対し、廃棄費用の積み立てを義務付けることを表明。
また、廃棄費用の積み立ても市議会で採択され、市は今後条例に盛り込む方針です。
そんな中希少生物の生息を脅かしかねない新たなメガソーラーの建設が明らかになりました。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師「ここ一帯がタンチョウの生息地ってことは、もう随分前から分かっていること」
つがいでしょうか。
すぐそばにはこの春、生まれたばかりのヒナの姿もあります。
このタンチョウの親子のすぐそばで、いま新たなメガソーラーの建設が進んでいます。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師「あれシマフクロウのケージですからね。あそこにいるんですよ、シマフクロウ。いま工事の音が聞こえていますよね」

獣医師の齊藤慶輔さん。
建設現場は齊藤さんが野鳥の保護や治療をする環境省の野生生物保護センターから300メートルほどの場所。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師「たくさんの野生動物がいて、繁殖期であってなおかつ環境省の希少種を保護する施設が間近にあって、どういう判断のもとで保全というのがされているかというのは本当に知りたい」
日本エコロジー・大井明雄営業部長「(工事を始めたのは)まだ2~3週間前ですね。(完成までは)3~4カ月ですね」
この場所で建設を行っているのは大阪に本社を置く日本エコロジー。
4・2ヘクタールほどの土地を取得し6600枚のパネルが設置されるメガソーラーの建設を予定しています。
日本エコロジー・大井明雄営業部長「キタサンショウウオに関しては再調査しました/タンチョウはもともと大丈夫だというお墨付きをもらっています」
これは日本エコロジーが専門の業者に依頼して行った希少生物の生息調査の結果です。
タンチョウだけでなく絶滅危惧種のキタサンショウウオや猛禽類も建設現場には生息していないという内容でした。

タンチョウの保護や研究を行っている百瀬邦和さん。
タンチョウの活動範囲などを調査しています。
メガソーラーの建設現場でタンチョウの生息について日本エコロジーからヒアリングを受けたのが百瀬さんです。
百瀬さんはタンチョウの営巣地や重要な餌場であれば建設すべきではないと言いますが、この場所での建設はタンチョウにそれほど大きな影響はないと話します。
タンチョウ保護研究グループ・百瀬邦和理事長「当該地では(営巣を)してませんし、これまでうちが30年ぐらいずっと全道を対象に営巣地の調査もしてますけれども、その中でも営巣記録はないです。かなり重要な餌場がなくなるという風には考えていない」
日本エコロジーはこれらの調査結果を釧路市のガイドラインに沿って野生生物の保護を監督する釧路市立博物館に提出。
しかし、博物館から反応がなかったため工事に取り掛かったところ、着工から数週間経った
先月、「専門家の意見を聞くように」という連絡があったといいます。

釧路市立博物館・秋葉薫館長「タイトルが予備調査というものでして、調査の時期も一般的なオジロワシの調査時期とは異なる時期の調査報告でした」
博物館は日本エコロジーが提出した猛禽類の生息調査は「予備調査」であったため、正式な調査報告書が提出されるのを待っていたということです。
また、タンチョウについては専門家へのヒアリングのみでは不十分で、詳細な生息調査を求めていました。
しかし日本エコロジーは先月からすでに工事を始めています。
希少生物のすぐそばで相次ぐメガソーラーの建設。
齊藤獣医師は建設予定地だけの調査では不十分だと指摘します。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師「工事をやると音とか親の目から人の動きが見えるとしたら、次の繁殖期から近隣の営巣地を安全な場所として見なさなくなってしまう。要するに繁殖しなくなる可能性も十分ある。少なくとも1キロ、2キロぐらいの範囲で、しっかりとタンチョウの生息調査、繁殖調査っていうのをやったのかどうか、これをしっかり調べる必要がある」
国策である再エネ事業と釧路の財産である湿原と希少生物の共存はできるのか。
いま「開発」と「保全」の間で釧路市が揺れています。