看護師を目指していた学生はなぜ…江差看護「パワハラ自殺」問題 学生の死からまもなく6年
2025年 8月22日 16:47 掲載
「息子は「先生達は生徒を奴隷のように思っている。
先生から『毎年10人落とせる権限を持っているんだ。
落とされたくなかったら私たちに従え』みたいなことを言われた」という話をしていました。」
今月5日、函館地裁で開かれた裁判で母親は言葉を詰まらせながら、こう訴えました。
■母親の会見:
「認めてほしいのはパワハラがあったからなくなったっていう1本だけです」
北海道江差町にある道立江差高等看護学院。
秀人さんも看護師を目指して、この学校に入学しました。
■母親:「ずっとぜんそくを持っている子だったんですよね。
入院することも多くて。やっぱりその中で看護師さんたちが優しかったりとかするのを見ていて、自分もそんだけいたからやってみようかなって思ったって言っていました」
ともに「看護師になりたい」という夢を持つ、友人もできました。
■友人:
「すごい優しかったですね。何があっても怒らないというか、基本、穏やかな感じで」
■友人:
「気配りができて優しい」
しかし、6年前の2019年9月。
秀人さんは下宿先のアパートで亡くなっているのが見つかりました。
自殺でした。
■母親:
「息子と電話だったりとか、会ってしゃべっていても、基本的には理不尽だって。レポートを受け取ってもらえないとか、どこが悪いか聞いても自分で考えろって言われる。先生に話しかけても忙しい。聞きたいことがあるんだったら、先生の予定をちゃんと把握して、予約を取ってっていうんですか、先生の都合を考えて声かけて、そこまで考えてちゃんとしなさいみたいな」
秀人さんの死から2年後の2021年。江差高等看護学院などで明るみになったのは、11人の教師による学生への53件のパワハラ。
その後、新たに設置された第三者調査委員会は秀人さんに対しても「『人格を変えなければいけない』と思わせるような指導をしたこと」など3人の教師による4件のパワハラがあったと認定。学校の学習環境が自殺につながったと認められました。
■第三者調査委員会・須田布美子座長:
「教員からパワーハラスメントを受けたことによって、死を考えるようになったものと認められます」
調査結果を受け、道は遺族に直接謝罪しました。
■道の担当者:
「心よりおわびを申しあげます。誠に申し訳ございませんでした」
■鈴木直道知事:
「道としては、この結果を大変重く受け止めております。
ご遺族に対して、深くおわびを申し上げますとともに、お亡くなりになられた学生に対して、心より哀悼の意を表します」
秀人さんが亡くなってから5年が経った去年9月。遺族側は自殺の原因はパワハラにあったとして、道に対しおよそ9500万円の損害賠償を求めて訴えを起こしました。
一方、道側は請求の棄却を求めて争う考えを示し、新たな主張を展開したのです。
「パワハラと認定された4つの事例はいずれもパワハラとはいえず、原告がパワハラや不適切な指導と主張する各事例と本件学生の自死との間の相当因果関係は認められない」
道側は、時期や言動が特定されていない場合でも第三者調査委員会が証拠に基づかない事実認定を行ったと主張。調査結果は必ずしも客観的ではないなどとして、認定された4件のパワハラをすべて否定しました。
■記者:
「Q現在、そのような主張をされているということでは、謝罪の前提が崩れることになるのですけれども、このこと自体が間違いだったというような認識でいらっしゃるのでしょうか」
■鈴木知事:
「係争中ですから、その点についてはコメントは控えたいと考えています」
■友人:
「人殺しといて逃げんなって感じはします。パワハラは絶対にありましたね」
■友人:
「『あなたなんて死ねばいいのに』とかは聞いていたし、『看護師向いてない』とか『学校やめた方がいいよ』とか。教師からのパワハラが原因ですね。そうとしか思えない」
■母親:「勝手に死んだわけではないんです。あなたたち(道)のせいなんです。そこまで追い込んだから、うちの子は最終手段取るしかなくなったっていうところなのに。その責任から一切逃れようとするのは違いませんかって」
秀人さんは自ら命を絶つ半年前、親友に1通の手紙を渡していました。
そこには、「4月からは死なないことを目標に生きていくわ」と書かれていました。なぜ、秀人さんは死を選択したのか。
HTBは道に対し第三者調査委員会が行った教師や学生らへの聞き取り記録を情報開示請求しました。
その結果、開示されたのが日時や場所など以外は全て黒塗りにされた文書でした。
裁判で証拠として提出しているため「訴訟の進行等に影響がある情報」だというのが理由でした。
■前田愛奈記者レポート:
「裁判所で道が提出した証拠資料を閲覧しました。明らかになったのは、黒塗りだった、教師や学生の証言です。」
資料には教師による「育てて卒業させるということではなくて(中略)レベルに達しない学生は落とす、やめさせるみたいな感じなのですよ。
切ってしまうという感じですね」「先生に(自殺した男子学生が)『人格を変えたらいいんです。』と言われ泣いていたと話は聞いたんです」
などの証言がありました。
HTBはパワハラが認定された教師に話を聞くため取材を依頼。
その教師のもとを訪ねましたが、「報道されている事実は異なる」「私から話すことはありません」と取材に応じてもらうことはできませんでした。
■記者:
「Q道の対応は本当に適切なものなのか知事の考えを自らの言葉でお話しいただきたい」
■鈴木直道知事:
「係争中なのでコメントを控えます」
■母親:
「息子・秀人亡くなってるっていうか、私にしたら、パワハラがあって亡くなってるって、殺されてるのと一緒なんですよね。知事は人を殺した人を守って、殺されたこっちは守ってくれないんですねって」
秀人さんが亡くなってからまもなく6年。母親は秀人さんの遺骨を、今も墓に納めることができていません。