町民の審判によって新たなニセコ町のリーダーに選ばれた田中健人さん３４歳。情報公開や住民主体のまちづくりを訴えてきました。

■初当選・田中健人さん：
「ニセコ町民の皆様から負託を得て当選のご報告ができたこと嬉しく思います」
新人４人が立候補し１６年ぶりとなったニセコ町長選挙。
争点の一つに浮上したのは水源地を巡る問題です。

ニセコ町の中心部からおよそ５キロ。羊蹄山の麓にある羊蹄地区には人口のおよそ８割にあたる４０００人の給水をカバーできる水源地があります。町は２０１３年羊蹄地区にある１６万平方メートルを超えるこの土地を、開発による水源への影響を防ぐため民間企業からおよそ１２００万円で購入しました。
それから１０年後、この土地を巡りある問題が浮かび上がりました。

ニセコ町からさかのぼって４代前の所有者にあたる、山梨県の企業・Ａ社。２０２３年に突然、この土地の所有権を主張し町を訴えてきたのです。土地の登記簿によると、１７年前の２００８年、山梨県の企業・Ａ社がＢ社に売却したことになっています。そのあと、Ｃ社、Ｄ社、そしてニセコ町へと所有が移っています。ところがＡ社は、第三者が土地を無断でＢ社に売り払った、Ａ社は売ったつもりはないなどと主張し、土地の返還を求めてきたのです。

町からすれば正当な取引のもとで取得した土地であり、無断での売買を知る由もありませんでした。しかし去年９月、一審の札幌地裁はＡ社の主張を認め町は敗訴しました。

■ニセコ町民：
「正しいことが裁判で認められないはおかしい／バカにするなとニセコ町を」

その後、町は判決を不服として控訴。議会ではなぜ敗訴したのか質問が相次ぎました。

■ニセコ町　高木直良町議：
「全然敗訴という想定はなかったんですけども。なぜ敗訴に至ったかというところをかいつまんで御説明いただければと思います」

■ニセコ町の担当者：
「原告の陳述書や証拠書類等など偏った認識で裁判官に事実認定されてしまったことが原因の一つだと分析をいたしております」

所有者に売買の正当性の説明が求められる１９６３年の最高裁の判例が採用され、Ａ社からＢ社への売買の正当性を町が証明できなかったことが敗訴の原因としています。

今年４月、裁判所は和解を勧告。裁判記録によりますと原告のＡ社は１坪１万円、町が購入した４０倍となるおよそ５億円で土地を売却する和解案を示してきました。この和解案について町民は…

■ニセコ町民：
「なるだけお金がかからない程度にやってもらって水源は確保してほしい」
■ニセコ町民：
「農業に使っているしそれが揺らいでしまうと本当に僕ら何もできなくなってしまう。５億円払ってでも守るしかない拒否することはできない」

裁判記録から明らかになったこともあります。和解が勧告されたあとの今年７月、町が裁判所に提出した書面からは重要な水源地であることをこれまで明確に主張していなかったことが明らかになりました。ニセコ町は「本件土地が町民に対して安全かつ安定的に水道を供給する上で極めて重要な土地である事実を、現時点で明確に主張していない」と主張する方針しです。この主張について片山町長は…

■ニセコ町片山健也町長：
「私たちは１０年にわたってきちっと専有させていただいているという認識なので当然私たちが勝訴するという理解をしております」

揺れるニセコ町。

今月８日には町の和解案を示すため非公開の全員協議会でおよそ１時間半にわたり話し合いが行われました。

町の担当者や町議らが参加しそこでは・・・「提示された５億円は法外な値段だ」「控訴審で勝たないとより厳しくなる」「懸念すべきは土地が売られて勝手に開発されることだ」などの発言がありました。
関係者によりますと全員協議会で町は数千万円で土地を買い取る和解案を提示する意向を示したといいます。
そして今月１１日には裁判所で町の和解案が示され元の土地所有者側と協議される予定でしたがこの日和解案を示すことはありませんでした。
理由は明らかになっていません。この日、町が水源を守るため裁判所に提出したものもあります。

■須藤真之介記者：「ニセコ町民などから集まった署名を提出するため町長らが今、裁判所に入っていきます」

町は町民やオンラインで署名を呼びかけ２２万人分もの署名を集め、裁判所に提出しました。

■ニセコ町片山健也町長：
「署名していただいて応援していただいていますのでぜひなんとかそういう方向で私たちの財産権が認められればありがたいなと思っております」

町が水源を守るために行った署名活動。
しかし、専門家は提出した署名が裁判の結果に影響することはないと指摘します。

■フラクタル法律事務所田村勇人弁護士：
「（裁判には）全く影響がないと考えます。そもそも裁判という作用が事実を認定してそこに法律を当てはめて結論を出すという作用ですからそこに世論だとか民主主義的な介入が行われるということはないからです」

水源地の所有権をめぐり争っている裁判。解決には、町は和解するしかないと専門家は話します。

■田村弁護士：
「二審で１回結審で和解勧告となっていってさらに被控訴人いわゆる一審の原告（Ａ社）が本件土地の売却価格を提示するという流れになっている以上もう高裁としては判決を変えるつもりがないという意思表示がなされていますので和解するしかないということになります」

１４日、投開票が行われた町長選で初当選となった新人の田中健人さん。
水源地を巡る問題についてこう話しました。

■田中健人さん：
「和解をするにしても和解の条件といいますか内容について町の見解をどうかというとこも含めてしっかりとまずは情報収集をしていくところからスタート」「いずれの形であってもニセコ町民にとっても大切な水しっかり守っていくということを全力でやっていきたい」

ニセコ町の人口およそ８割をカバーする重要な水源地を守ることができるのか。新しいリーダーの手腕が試されます。