釧路湿原“メガソーラー問題” 違法開発も発覚 建設地近くにタンチョウ親子 ついに国が動き出した
2025年 9月17日 19:30 掲載
日本最大の湿原・釧路湿原。その周辺で相次いでいる、太陽光発電施設の建設。国策でもある再生可能エネルギー事業を進めるためと訴える事業者。しかし、その裏で希少な生き物の生態系が脅かされています。
獣医師の齊藤慶輔さん。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師:「大々的に工事をやっている、重機が入って。土地をならしている。ダンプで土砂を搬入するというのもやっていた、前は」。

齊藤さんが野鳥の保護や治療をする環境省の野生生物保護センターから300mほどの場所で、メガソーラー施設の建設が進んでいます。4.3haの湿地帯に、およそ6600枚のパネルを設置する計画です。事業主は、大阪に本社を置く「日本エコロジー」。全国およそ700カ所で太陽光発電施設を手掛け、釧路市内では17カ所で計画中です。
日本エコロジー・大井明雄営業部長:「キタサンショウウオに関しては再調査した。タンチョウは元々大丈夫だというお墨付きをもらっている」。

日本エコロジーは、釧路市のガイドラインに沿った希少生物の生息調査を実施。その結果、タンチョウだけでなく絶滅危惧種のキタサンショウウオやオジロワシなどの猛禽類も建設現場には生息していないとしていました。しかし…。
今年7月、HTBのカメラが建設現場近くを歩く2羽のタンチョウの姿を捉えました。つがいでしょうか。近くには、この春、生まれたばかりのヒナの姿も確認できました。別の日に近くで撮影された映像では、タンチョウの親子のすぐ後ろで、重機を使った工事が行われていることも分かります。建設現場からわずか100mほどの場所でした。

齊藤慶輔獣医師:「実際にどのぐらいの距離感でタンチョウが生息して、居ついているかというのを分かっていただくために、この音とともに流した」。
齊藤さんは開発行為の現状を広く知ってもらおうと、ドローンで撮影した建設現場の映像や近くにすむタンチョウの親子の様子をSNSに投稿。多いもので1600万回以上閲覧され、著名人がコメントするなど大きな反響を呼びました。

野生生物の保護・監督をする釧路市立博物館によりますと、事業主の日本エコロジーが行ったタンチョウの調査は専門家への聞き取りだけで、現地での生息調査は行われていませんでした。また、国の天然記念物・オジロワシについては、2月中旬から9月下旬の繁殖期に最低でも毎月3日間調査することが必要だと環境省のガイドラインでされていますが、実際には去年10月に3日間行われただけでした。さらに、日本で繁殖する猛禽類のうち最も生息数が少ないチュウヒについては、調査すらしていなかったことが分かっています。
文部科学省・阿部俊子大臣:「騒音また振動等を伴う天然記念物への保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、影響が軽微でない場合は文化庁長官の許可が必要である」。
天然記念物を所管する文化庁は先月、調査が不十分なまま工事が行われている場合「原状回復を命じる可能性もある」という見解を釧路市に伝えました。文化庁が、太陽光発電施設の建設について見解を示すのは、全国で初めてのことです。
国が動き出した異例の事態。元環境大臣のこの人も。

小泉進次郎元環境大臣:「生物多様性の保全や地域の理解を前提とする再生可能エネルギーが大事なわけで、今回のように生物多様性の保全をないがしろにする再生可能エネルギーが許されないというのは当然のこと」。
日本エコロジーのメガソーラー建設を巡っては、新たな問題も発覚。太陽光発電施設の建設で、0.5haを超える森林を開発するには、都道府県知事の許可が必要だと森林法で定められていますが、日本エコロジーは道に申請をせず、0.86haの森林をすでに伐採していたことが分かりました。道は今月2日、日本エコロジーに違法に開発した区域での工事中止を勧告しました。
鈴木直道知事:「北海道の貴重な財産である森林が失われたということは、大変遺憾。事業者が指導に従わない場合、中止命令を発出するなど厳正に対処をしていく」。

国会議員も、現場の状況を把握するため連日視察に訪れています。9日には、自民党の議員や関係省庁の職員らが、現地で日本エコロジーの松井政憲社長から説明を受けました。
松井社長:「今後、希少種・環境との調和を弊社としても行っていき、その中での指導というのは賜っていく」。
松井社長は、0.5haを超えて違法に伐採した部分については植樹をすると説明。一方で、希少生物の生息調査が不十分だと指摘された点については、建設の届け出は釧路市に受理されているとして、原状回復を求めるのは法律に反すると主張しています。
松井社長:「我々も受理・ゴーサインが出た中で、投資・事業開始というのを行っている。立ち止まることもできない、かなりの投資をしているので。どのようにすれば調和を取っていけるのか、協議を早急に行って工事を始めていきたいと考えている」。

現地を視察した議員連盟の代表・古屋圭司衆議院議員は…。
古屋議員:「調査するからには、なんちゃって調査なんていうのはダメ。環境問題と表裏一体の関係の事業という認識はしっかり持ってほしい」。
この数日後、日本エコロジーは工事を1カ月ほど中断することを決定。「森林の原状回復と希少生物への保護対策について、釧路市や道と協議し環境に配慮した形での計画を進めるため」としています。
湿原からのSOSに、国が動き出した今回の事態。釧路を拠点に野鳥の保護を続けてきた獣医師の齊藤さんは、地方自治体レベルで解決できる問題ではないとして、法改正を含めた国の対応に期待します。
猛禽類医学研究所・齊藤慶輔獣医師:「希少種の保全のために人間は何をしなきゃいけないかしっかりと指し示す。もちろん人間の財産権、土地所有者の財産権っていうのも配慮しながら、しっかりとした共生への道というのを種の保存法の中に盛り込む。これが重要だと思う」。