過疎が進む中 人とクマの境界線をどう守る?…北海道渡島・桧山地方各町のクマ対策最前線に密着
2025年10月 4日 12:07 掲載
過疎が進む中、人とクマの境界線をどう守るのか?対策に追われる北海道・道南のマチの最前線です。
相次ぐ人の生活圏へのクマの出没。
特に今年、被害が多かったのが道南エリアです。
■前田愛奈記者(今年7月):
「クマが男性を引きずったとみられる跡が残っています。住宅地から道路を挟んで草地へと続いています。」
7月、福島町で新聞配達中だった男性が住宅街でクマに襲われ死亡。
また、江差町や上ノ国町では連日、家庭菜園のスイカなどが食い荒らされました。
道南での今年の通報件数は986件。
現時点で、過去5年で最も多くなっていて、すでに去年の3倍です。
原因として、気温の上昇により夏場のエサ不足の期間が長びいたことなどが挙げられています。
道南の上ノ国町。
住宅地にもクマが現れ、既に去年の8倍以上となる50頭が駆除されています。
■町民:
「クマはおっかないからね。夜は歩けない。」
■町民:
「恐怖ですよね。普段出ないところにまで出ているから。」
町民の安全な生活を守るため、クマ対策を担うのは農林課の4人の職員です。昼夜を問わず、クマの対応に追われるため、本来の業務に手が回らず積み上がります。
■上ノ国町農林課石山雄大さん:
「終わらなければ土日も来たりして、本当に休みが取れない。人が欲しいです…。」
被害の確認のほか、日々のパトロールも欠かせません。
国道を走っている時でした。
■前田愛奈記者:
「クマが草むらから出てきました。子グマです。」
■上ノ国町農林課石山雄大さん:
「最近ああいうクマばっかりですね。車が通っても逃げなかったりだとか。人に慣れちゃっているのか。そういう傾向が強い」
幸いにも、山の方へと戻って行きました。
■前田愛奈記者:
「上ノ国町は天の川沿いに新たに電気柵を設置しました。長さは1キロに及びます。」
町は先月2000万円の補正予算を組み、さらなる電気柵の設置などを行っていますが、過疎が進む中、厳しい現実に直面しています。町営住宅のすぐそばにあるクリの木。クリの実を求めてクマの出没が数回確認されています。電気柵の設置や草刈り、木の伐採には土地の所有者の同意が必要ですが、所有者が町外に引っ越してしまっていることも多く、対応に時間がかかってしまうこともしばしばです。
■上ノ国町農林課石山雄大さん:
「クリの木があってクマが来るっていうのはわかってるが、対処ができない。それが難しい。」
道南・知内町の家庭菜園。先月25日、クマによるブドウの食害が確認されました。
■住人:
「きょうの朝見たら穴が空いていたんですよね。今まで何十年いたけど初めてですね、ハウスにきたのは。」
町内では8月下旬からブドウなどの食害が相次ぎ、今月末までヒグマ注意報が出されています。そんな中、町は今年から新しい取り組みを始めました。家庭菜園での電気柵の貸し出しです。
職員が家を訪問し、住人と一緒に電気柵を設置します。
■知内町商工林業振興課林業振興係中村俊太さん:
「クマって穴を掘って中に入るんですよ。地面からの高さが20センチが推奨されていて。」
正しい電気柵の設置の仕方と電気柵の効果を知ってもらう狙いで、2年目からは購入費の半額を補助します。
知内町もヒグマ対策に当たる職員は3人。
限られた人員や予算で対応に当たる中、最も危機感を募らせているのは「ハンターの確保」の難しさです。
■知内町商工林業振興課林業振興係中村俊太さん:
「捕獲技術のある、毎年何頭も取れるハンターが少ないので技術の継承や育成は課題かなと思います。」
知内町のハンター・一之谷駿さん。町議会議員を務めながら、ピザ店を営み、町からのハンターとしての出動要請に答えています。
■一之谷駿さん:
Q仕事してるときにも要請が?
「あります、あります実際に山を歩けて普段すぐ動けるのは現状2人。
これはまずいなっていう。」
Q毎日山に?
「毎日行きます。罠は毎日見回りしなくちゃいけないので最近は本当にクマが多いので朝いなくても夕方になったら入っていたり。」
一之谷さんは町から委託され、2基の箱罠を設置・管理しています。
■一之谷さん:
「うわ、壊されているな。
木にくくりつけて転がらないようにしていたが(クマが)ゆすって、バタンと。
」先月から市街地であっても緊急時は自治体の判断でハンターに緊急銃猟を委託できるようになりましたが、実際にクマを駆除するには、十分な経験が必要だといいます。
■一之谷駿さん:
「クマも人里に下りて来たらパニック状態で何されるかわからない。市街地で撃つってなると簡単に引き金は引けない。」
現在、町内にハンターは16人いますが、ここ数年でクマを撃ったことのあるハンターはこのうち数人のみ。
経験を積んだハンターの育成が急務です。
■知内町・中村俊太さん:「どの町も熟練者が少ない。
若手も少ない。
若手確保したい、育成したいっていう共通の課題があったんで、松前福島木古内知内の4町で射撃場での育成研修会を予定しています。」
人も予算も限られる小さなマチで、クマ対策はきょうも続いています。
【スタジオ】
「アーバンベア」対策に詳しい酪農学園大学・佐藤教授に聞きました。
1自治体の体制について(いまは農業や林業などの業務を兼務しているが)クマなど鳥獣被害対策専門の知識のある職員を配置することが大切。
↓人員不足で厳しいのなら複数の市町村で共同の専門職員を採用するなど検討を※広域消防みたいなイメージ2市街地のクマ駆除について環境省の「緊急銃猟ガイドライン」には「非常に危険な行為を引き受けることを現に実力を有するというのみで私人(=ハンター)に依頼せざるを得ない状況は、本来是正するべきものである。
」との記載。
佐藤教授も例えば警察など公的機関が駆除できる仕組みをつくる必要があると指摘しています。
いま「持続可能な」クマ対策のあり方が問われています。