空から命を守る “道警航空隊”救助隊員に密着 「小さなミスが命取り」 緊迫の山岳救助の現場
2025年10月 2日 19:30 掲載
空から救助の現場に駆け付ける道警の航空隊。命を守るため、危険な現場で奮闘する救助隊員を取材しました。
紅葉シーズンを迎えた北海道。登山やハイキング、きのこ狩りを楽しみにしている人もいる中、注意が必要なのが山岳遭難です。道内では、8月までに126件の山岳遭難が発生。遭難者数は174人に上り、過去5年で最悪のペースです。9月から10月にかけては、きのこ狩りで遭難が増える季節でもあります。
山岳遭難が起きたとき、空から現場にいち早く駆けつけるのが道警の航空隊です。8月、知床半島の羅臼岳で男性がクマに襲われ死亡した事故。道警航空隊は、山に取り残された登山客およそ70人をヘリコプターで吊り上げ救助しました。
この現場に駆け付けた救助隊員の一人が、今田寿史さん(38)。道内およそ1万人いる警察官のうち、わずか9人の精鋭チームです。
今田寿史さん:「小さなミスが命取りになるので」。
危険な現場で命を救う、道警航空隊の救助隊員に密着しました。
道警航空隊の拠点は、札幌市東区の丘珠空港。救助隊員になって8年目の今田寿史さん(38)。これまでに、およそ180人を救助してきました。
今田寿史さん:「学生の頃から救助という仕事に興味があって、調べていくと警察にもそういう救助隊があることを知って、北海道警察に拝命することができました」。
この映像は今年5月、後志の羊蹄山で今田さんが登山客を救助した時の映像です。9合目付近で動けなくなった、イギリス人の2人。「寒くて動けない、避難小屋に行けない」と通報してきました。
気温およそ5℃の寒さの中、軽装で登山した2人。通報から1時間後に救助され、命に別状はありませんでした。
今田寿史さん:「日没間際で真っ暗な状態なので、急がないといけない切羽詰まった状況でした。5月とはいえ夜はかなり寒いので、低体温症の可能性が高かった。早くしないと命にかかわるので、救助できて良かったと思います」。
1963年に発足した道警航空隊。総勢およそ50人。今田さんのような救助隊員のほか、ヘリコプターのパイロットや救助の装置を操る整備士が所属しています。年間の出動件数は、およそ200件。夏山・冬山両方への対応が求められるほか、水の事故でも出動するため、救助隊員は全員潜水士の免許を持っています。
道警航空隊救助隊員・加藤久賀さん:「気力、体力、技術に優れている者が選ばれていく。道警の救助隊員の中でトップクラス、頭が一つ抜けている人が集まっています。海、山、川、どんなところにも行けるよう訓練をしています。いつ出動要請がきても、すぐに駆けつけ人命救助に努められるよう、過酷な訓練に励んでいます」。
この日は、不定期に行っている山岳救助訓練。札幌市南区にある砥石山と札幌岳で、それぞれ登山者が遭難したという想定です。今田さんがワイヤーロープを使って降り立ったのは、札幌岳の山頂。足元には急な崖があり、危険な場所です。熱中症の疑いで動けなくなったという登山者に、声を掛けます。
今田さん:「隊員どうされました?」
遭難役:「喉が渇いちゃって、手がしびれる」。
今田さん:「飲み物飲んでいる?」
遭難役:「もうない」。
今田さん:「どれくらい飲んでいる?」
遭難役:「500ml」。
今田さん:「朝からですか?それだと脱水の可能性がある。上に上がるので、協力してください」。
命が危険にさらされる現場で、日々救助活動に立ち会っている隊員たち。仲間との食事は、かけがいのない時間です。
今田さん:「きょうは、みんな大好きな唐揚げチャーハンです」。
後輩の隊員:「昼はほぼプライベートな話。現場の話もしますよね」。
記者:「今田さんはどんな人?」
後輩の隊員:「男らしい一面があって、尊敬しています。言うべきところはちゃんと言ってくれる、兄貴的な存在です」。
空知の月形町出身。高校卒業後、19歳で警察官になりました。子どもの頃から憧れだった救助の仕事を目指し、23歳で機動隊に入隊。31歳で、念願の航空隊に配属されました。今は家族の応援が支えになっています。
今田寿史さん:「妻は心配な面もあると思うんですけれど、家族にしっかりと自分のことを見せられる仕事をしたいと強く思って、勤務に当たっています」。
出動要請のない時間を使って、地上でもトレーニングに励みます。重さ50kgのリュックサックを背負って、走り込み。実際の現場では、もっと重い人を背負って救助することもあるため、日々の訓練が大切です。
今田寿史さん:「15回くらいやります。後ろから後輩が来たので、頑張りたいなと思って走っちゃいました」。
後輩の隊員:「定期的に今田部長に考えてもらっているトレーニング。“いまチャレ”って名前がついています。強い救助隊員にしていただいているという思いがあるので、ありがたく思っています」。
今田さんが航空隊に入って7年半。危険な現場に、これまで何度も立ち会ってきました。体力的にも精神的にも過酷な仕事です。それでも続けられるのは、救助した人たちからの感謝の言葉があるから。特に、初めて救助した人のことは、いまも強く心に残っています。
今田寿史さん:「『本当に死ぬところだった。助けてくれなければ死ぬところだった。本当にありがとうございました』ということを言われて、自分のやっている活動は間違いないと思いましたし、自信と誇りにもつながりました」。
空から命を守る。今田さんは、きょうも救助の最前線を飛んでいます。























