【解説】知床沖観光船沈没 業務上過失致死罪の責任を問う異例の証人尋問と今後の日程 釧路から中継
2025年11月12日 19:26 掲載
依田アナウンサー)
「事故から現地で取材を続けていますが、桂田被告の肉声を聞くのは実に3年半ぶりでした。今日1日を通して感じたことは、被告は全体として声に芯はなく、淡々としていて、飄々とした立ち振る舞いが非常に目立っていたなと私は感じました。
桂田被告ですが、証言台に立ってしゃべったのは裁判の冒頭1回のみでした。午前の検察側からデータが示されます証拠調べでは、目をつぶっている時間が非常に長かったように私は感じました。
ただ、お昼の休憩を挟みまして、午後になって証拠調べが続いたのですが、そこでは当時の波の高さのデータや、船内から見つかった乗客のタブレット端末の位置情報のデータから、沈没する前の船の位置やスピードが示されますと、桂田被告は真剣にデータが表示されています自身の前にあるモニターを見たり、手元の資料をくい入るように見ていた姿が非常に印象的でした。桂田被告にとって一つ重要なデータなのかなと見ていて私は感じました。
室岡里美アナウンサー)
「乗客家族の皆さんの法廷での様子はいかがでしたでしょうか?」
依田アナウンサー)
「はい、今日は、17人のご家族が被害者参加制度を利用して傍聴をしていました。中には、ずっと桂田被告を見つめている方、そして静かに下を向いて目を閉じながら話を聞いている方など様々いらっしゃったんですが、一番印象的だったのが、桂田被告が証言台に立つ前に、起訴状の読み上げというものがあるんですけれども、その起訴状を読み上げている最中に、左手にピンク色のハンカチを持って涙している姿のご家族の方がいらっしゃいました。非常に印象的でした。
室岡里美アナウンサー)
「新しい証拠というものは出てきたんでしょうか?」
依田アナウンサー)
「はい。今日新しい証拠が2つ出てきまして、まず1つ目なんですが、検察側が音声データを法廷内で流しました。「KAZU I」や「KAZU I」から連絡を受けた他の観光船事業者から海上保安庁への通報、この音声記録が法廷内で流されました。内容が今画面に出ていると思います。
「KAZU I」の豊田船長から、「もしもし、小型船舶だが、知床のカシュニの滝で船首部分が沈んでいる」と通報がありました。これに対して海保は、「GPSは使えますか?」と問いかけたところ、豊田船長は、「GPSですか?ちょっと待って。レーダーだめですね。お客さん10人くらいです。船首沈んでいる。バッテリーだめそう」と、危機迫る声が法廷内に響いていました。音質も非常にクリアで、この音声を聞いたご家族からはすすり泣く声も聞こえました。
また、裁判の本当に最後なんですが、弁護側から9秒間の、沈没する前に船内から乗客が撮影した1本の動画が流されました。非常に高い波、白波が立つ中、船が前進していきまして、動画の最後には船に波が当たって「ドン」という音と共に、船が大きくバウンドする様子が映像として捉えられていました。おそらく1階の客席からスマホの縦動画で撮ったものだと思うんですが、かなり荒れている海の様子に、午後4時半過ぎの法廷内は静まり返っていました」。
森唯菜アナウンサー)
「今後の裁判の行方について刑事事件に詳しい弁護士に聞きました」。
刑事事件に詳しい
内田 健太 弁護士)
「この種の船の事故であれば、その責任というのは、事故を起こした時に運転した船長が責任を負うのが一般的なので、実際にその場で運航の判断をしていなかった社長、管理者の方まで刑事の方で起訴されるっていうのは異例と言っていいと思います。
(弁護側は)船長が適切に引き返してくれるっていうのを信じていたんだという主張ですから、本件では、具体的な事情を踏まえた時に、船長に信頼して全てを任せるということは許されなかったんだという事情を検察が立証できるかどうかがポイントになるかと思います。
(業務上過失致死罪は)一審と二審とかで判断が分かれることは結構多い類だとも思う。過失は結局評価なので、何とでも言える側面もあり、裁判官の気持ちや考え方によって判断が左右されやすい状況です。
ご家族の気持ちとしては、責任があるかどうかの議論というよりは、責任がもしあるという結論になった場合に、量刑のところで問題になってくると思ってます」。
森唯菜アナウンサー)
「裁判では実際にどのようなポイントが争点となっているんでしょうか?」
依田アナウンサー)
「裁判を聴いていまして、この業務上過失致死に問われています、今回の裁判の争点なんですが、こちらになります。
桂田被告が事前に事故を予見できたかどうか、ここが争点となっています。
まず検察側ですが、当時、強風波浪注意報が発表されていた。会社の運航基準を超える強風や高波が予想されていた。同業他社が船長に対し、悪天候のため昼までに帰港するよう忠告していた。以上のことから、桂田被告は事故を予見できたにもかかわらず、出航や航行の中止の指示を怠ったと主張しました。
一方で弁護側ですが、桂田被告は事故当日の朝に船長と協議をして、船長から「荒れる前に引き返す」と言われた。午前中に帰港すれば運航基準を超えるものではなかったと主張しました。さらに事故の原因について、観光船のハッチが完全に閉まらない故障によるものだった。桂田被告はこの故障を予見できる可能性はなく、つまり事故の発生も予見できなかった。以上のことから無罪を主張しました。
そして裁判はこの後も続いていきます。今後の日程です。来月の10日から来年2月18日の間に6回にわたる証人尋問が開かれます。19人が証言台に立つ予定です。この19人というのは、刑事事件としては異例の多さだということです。
そして3月2日から3日間連続で、桂田被告への被告人質問が行われます。桂田被告の口からどのようなことが語られるのか非常に大きな注目となります。そして4月16日には論告求刑が行われて、初公判から半年以上が経ちました、来年の6月17日に判決が言い渡される予定です」。



























