追跡 “スマート農業”補助金詐欺 被災地狙った横領事件から11年 あの主犯格が再び 関係者が語る実態
2025年12月16日 19:00 掲載
農水省の補助金をだまし取った詐欺の疑いで逮捕・送検された、旭川市の岡田栄悟容疑者(46)。大柳彰久容疑者(41)、麻野美穂容疑者(34)。3人は去年4月、農水省のスマート農業に関する補助金を巡りうその申請をして、補助金882万5000円をだまし取った疑いが持たれています。
事件の舞台となったのは、旭川市で養鶏場や農場を運営する「大柳ファーム」。詐欺に加担させられていたという元従業員や農地を貸していたという農家からは、被害を訴える声が上がっています。
元従業員
「『補助金が取れなかった場合にお前ら分かってるよな』みたいな脅し文句が…」。
農家
「小作料の不払いは初めてで前代未聞」。
そして、容疑者3人は11年前、世間を騒がせた「あの事件」にも関わっていました。
岩手県山田町で起きたNPO法人「大雪りばぁねっと。」による、東日本大震災の復興支援事業費を巡る不正流用事件。岡田容疑者は、復興補助金およそ5400万円を横領した罪などに問われ、2017年に懲役6年の実刑判決が確定しました。大柳容疑者と麻野容疑者も関連の事件で逮捕されましたが、不起訴となっていました。
今回の詐欺事件の舞台となった大柳ファーム。大柳容疑者が代表を務めていますが、実態は違うと元従業員や周辺の農家は証言します。
元従業員
「(大柳容疑者が)社長っていうのは名ばかりで、一従業員よりも立場が低い。何も決定権のない岡田容疑者の操り人形だったと思います」。
農家
「(大柳容疑者は)いい青年だと思っていた。そのうちに、だんだん岡田容疑者が入ってきたばかりにおかしくなった」。
警察も主犯格だとみている岡田容疑者。実は、妻は大柳容疑者の姉で、2人は義理の兄と弟という関係です。また去年、HTBの取材に対し岡田容疑者は元部下の麻野容疑者について、こんな話もしていました。
「麻野とは一緒にやっているよ。俺が声をかけたら戻ってきて、いま一緒にやっている」。
一方で、自分の過去を隠すような行動も。元従業員によりますと、多くの場面で偽名を使っていたというのです。
こちらは、岡田容疑者が持ち歩いていたという「高山蓮司」という名刺です。ローマ字表記の「EIGO OKADA」の名刺と比べてみると、住所や電話番号が全く同じです。
元「大雪りばぁねっと。」の3人が逮捕された、今回の補助金詐欺事件。警察によりますと、岡田容疑者ら3人は、スマート農業を推進するための農水省の補助金制度を悪用。農業用のドローンを購入したように装い、偽造した納品書やドローンの画像を北海道農政事務所に送信して補助金を申請。882万5000円を振り込ませた疑いが持たれています。
元従業員
「岡田容疑者が見つけた補助金を、手当たり次第にLINEで送ってくるような感じだった。取れそうな補助金を、全て申請してしまうみたいな。あることないことを、あることにして申請しろというような指示でした」。
こう証言するのは、去年8月までの1年間、大柳ファームで経理を担当していたという元従業員の男性です。
元従業員
「今回の逮捕容疑となった補助金の他に申請しろと言われたものは十数件あったと思うが、悪いことと分かっていたので、かいつまんで6件ぐらい。不備が出るように申請して取れないような感じにして。期限が分かっていたのに過ぎていないと思い込んだふりをして、申請するのを逃れたような感じです。(申請)期限が過ぎるだとか『通りませんでした』と言うたびに、怒鳴られるような感じでした」。
さらに、会社の経費を私的に流用していた疑惑も…。
元従業員
「(岡田容疑者は)キャバクラ、飲み屋、高級ブランドの領収書、スーパーで買った子どものおやつが入ったようなレシートとか、そんなものばかりでしたね。経費で落ちないと思っていたので、はじいていたんですけれど、『これも入力してしまえ』と言われ、泣く泣く入力させられた」。
別の元従業員が事務所で見つけた領収書。宛先には「大柳ファーム」と書かれています。旭川市内のキャバクラで発行されたもので、代金は42万円4000円と高額です。
一方で、地元の農家とは金銭トラブルが…。
これは、地元農家の男性が大柳ファームと交わした契約書です。広さ631アールの農地を、3年にわたって年間およそ64万円で貸し、大柳ファームが耕作するという契約になっています。しかし、賃料は去年分の3分の1しか支払われず、その後の支払いは滞っていると言います。
男性は今年6月、大柳ファームに督促状を出し、「6月末日から7月上旬に支払う」と文書で返答がありましたが、およそ半年がたった今も支払われていないということです。
男性が大柳ファームに貸した農地の先月の様子です。刈り取られていない稲が、そのまま放置されていました。
農家
「秋になって稲刈りしていたけれど、半分もしていないでしょう。補助金をもらう目的で、とりあえず米をまいたら作っていることになるから」。
農業用ドローンの導入で農水省の補助金を受けるには、耕作する農地を確保して証明する必要があります。元従業員の男性は、大柳ファームが米作りではなく補助金を不正に得る目的で農地を借りていたとみています。大柳ファームに農地を貸し、賃料未払いの被害に遭っている農家は8軒に上ります。
かつて、被災地の復興補助金およそ5400万円を横領した罪などで有罪判決を受けた岡田容疑者。服役中にHTBの記者に宛てた手紙には、反省の言葉はありませんでした。
手紙の抜粋
「事件についてですが、この場では釈明しません。あの震災で私は自らを顧みず全力で戦わせていただきました。地域や被災者を思い、必死でした。その思いの中で、一般的な方との考えのずれが、この様な事態・結果だと今は思っています」。
民事裁判で、山田町におよそ5600万円の支払いを命じられた岡田容疑者ですが、これまでに1円も支払われていません。



























