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めぐみ横丁

2018年08月21日(火)

ある日の明け方のこと。
よく立ち寄る家の近くにあるコンビニエンスストアで、
あるお客さんが、黒いロングヘアの女性店員に話しかけていました。
レジ周辺に不穏な空気が漂っています。

ん? なんだなんだ?

少しばかり離れ、静かに様子をうかがっていると、
日々の生活での鬱憤を晴らすかのような 
整然としない愚痴や文句の言葉をつらつら並べた挙げ句、
「 あんた、愛想ないね 」
と、皮肉を込めた低い声で吐き捨てました。

店員さんは、直立不動で、
何も言い返さず、無表情を装っていますが、
心なしか、口元に力が入り、目が潤んでいるように見えます。

やり場のない怒りが、ふつふつ、ふつふつ。
なんて乱暴な人。理不尽にもほどがある。
ここは、わたしがかわりに、何か、言わなきゃ。
いや、でも、なんて言えばいいのか。
かえって事態が悪化したら、、、
遅刻するのも嫌だし。うーん。

結局、何も言うことができず、
そうこうするうちに、したり顔の年配女性は去っていきました。

ピッ。ピッ。 
レジの音が虚しく響き渡る店内にいるのは私たち2人だけ。
バナナとヨーグルトとおしぼりが
レジ袋に入れられていきます。

店員 「 (小声で無感情に) ありがとうございました」
大野 「 あの!」
店員 「・・・ 」
大野 「 ( 店員さんの名札を見ながら )
    ◯◯さんは、今のひどい言葉、
    気にしないで大丈夫だと思います 」
店員 「・・・・・・」

こう伝えるのが、精一杯でした。


翌朝。
同じコンビニに行くと
同じ店員さんがいました。

バナナとヨーグルトとおしぼりをレジ袋に入れ終え、
私の目をしっかり見ながら微笑を浮かべています。

「 きのうはありがとうございました。
  いつもあのようなお客さんがいたら
  一日中嫌な気持ちで勤務するのですが、
  きのうは嬉しい気持ちで仕事することができました」

聞けば、あの女性客の場合、
頻繁にこのコンビニに来ては、
レジにいる店員さんたちに  
支離滅裂な言葉をいつも投げかけていたそうです。
そんな中、気持ちが救われた、と。  

心に、そよ風がさぁぁっと吹きました。
私が一言伝えるのは少しばかり勇気がいったけれど、
たぶん、それ以上に、
店員さんが感謝の気持ちを私に伝えてくれるのも
きっと勇気のいることだと思うんです。
朝食のバナナが、いつもより幾分甘く感じました。

以来、たまにお見かけすると、どちらからともなく
ぽつ、ぽつ、と短い言葉で会話するようになりました。  
1日の始まりが、優しい気持ちで満たされるようになりました。
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