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先日の夜、久しぶりに末っ子と歩いて買い物に行った。
手をつなごうとすると、すっと振りほどく。また握ろうとすると、さっと逃げていく。
どうして?顔をのぞき込むと「二年生だから」。
その言葉に思わず笑ってしまった。
去年の冬、帯広から転校した時、
「僕、一人で行けない」と、ひと月以上も一緒に手を繋いで学校へ通った。
道端の小石をどけようとして手と手が離れそうになると、ギュッと握り返してくる。
その度に「あせるまい」と思った。
この子の不安が消え、自分から歩き出す時まで、甘やかしていると思われても、構うまい。
今、こうして手をつなぎ、朝の冷たい風に吹かれ、学校へ通った日々が、
彼のかけがえのない思い出になるだろう。
そう思ううちに、彼が私の手をほどくタイミングが、少しずつ早まっていった。
校門から五メートル前。次の日は十メートル前。かと思うと、また五メートル前に逆戻り。
そんな彼に、頑張ろうね、とは言わなかった。
握り締めた手のひらの奥で、彼の小さな自立の芽が、土をかき分けようとしているのだから。
そうして手を握り締めているうちに、ある朝、
「一人で行ってみる」の言葉を残し、駆けて行った。
あの時、あんなにあせらず、時を待てたのは、
何より私自身が、そのひと時を失いたくなかったからかもしれない。
手を振り払い、歩く息子の横顔を見ながら、そのことに気付いた。 〆
小雨模様の日曜日の朝、
父は、私をはじめ女ばかりの4人の子供たちに訳は告げず、
畑に隣接している空き地の雑草を刈るように命じた。
「何も雨の日に」と思ったが、父の命令は絶対で、私たちはカッパを着て背丈を越える雑草を刈った。
あくる日、学校から帰ると、父が「畑に行ってみろ」と一言。
刈り残しはなかったはずと不思議に思いながら行ってみると、
そこにはシラカバの木でできたブランコが立っていた。
学校までは3キロの道のり。
隣の家までは自転車で行くような寂しい土地で、
子供たちに少しでも楽しい暮らしを、と願う父の思いがあふれた、
すべてが手作りのものだった。
鎖は荒縄、腰掛けはまきをカンナで削った、世界でたった一つのブランコ。
数日後には、切り株に板を渡したシーソーも加わった。
雑草が生い茂っていた5坪ほどの空き地を、子供たちは「あおぞら公園」と名付け、
学校から帰ると、毎日暗くなるまでのほとんどを、ここで過ごしたものだ。
あとで母から聞いて分かったことだが、
父が雨の日に草刈りを命じたのは、雨が土を軟らかくし、草が抜けやすいからだった。
東京オリンピックが開催された昭和39年の夏のことである。
今年は、心豊かに生きることを、身をもって教えてくれた父の十七回忌。
娘たちは、今も時折、心の中の「あおぞら公園」で遊んでいる。 〆
娘の次男が昨年、試験に合格し美容師になりました。
娘の話ではカットの腕も少し上がったようだとのこと。
どんな仕事ぶりなのかも見たくて、
バスと列車を乗り継ぎ、孫の勤める美容室に行きました。
私の髪形は、昔風にいうならマッシュルームカットです。
「いらっしゃいませ」とスタッフの方に温かく迎えてもらい、順番を待ちました。
お客さんに明るく声をかけ、皆さんがキビキビと動いていて、良い雰囲気でした。
孫は「ばあちゃんのカットなんて緊張するー!」と言いながら
手順通り進めていきます。
母親から聞いた私の最近の関心事などを話したり、
年金支給日は美容室が混み合うとか、手も口も休ませることなく、
私の満足のいくように仕上げてくれました。
先輩から細かい部分の指導があり、再度やってみてOKです。
仕上げのシャンプーは本当に気持ちよかった。
「お湯は熱くないですか? 痛いところやかゆいところはないですか?」
と聞いてくれる声に、小さい頃を思い出してウルウルしてしまいました。
どこの職場もそうでしょうが、
仕事のきつさから、一緒に勤務した同期は残っている人の方が少ないとか。
孫も大変さを母親にこぼすことがあるようですが、
職場では笑顔で楽しげに仕事をしていて安心しました。
母親には私のカットは「難しかった!」と言っていたそうです。
これから何回でも練習台になるからね。