マルシェ、バー、お笑いライブも!? コロナ禍で苦境のタクシー会社 再起をかけた挑戦
コロナ禍で苦境に立たされるタクシー業界ですが、再起をかけてユニークな戦略を次々に打ち出す会社が、札幌にありました。
去年10月、札幌市豊平区平岸の住宅街にオープンしたバー「Apple Lodge(アップル・ロッジ)」。大正時代に建てられた、国の登録有形文化財でもある蔵を改装してつくられました。中井浩司さん:「コロナ禍で売り上げも大変だったのでいい働き方だと思います」。バーテンダーの中井さん。実は、本業は別にあります。
創業64年、だるまのあんどんがシンボルの平岸ハイヤー。中井さんは、ここのタクシー運転手です。記者:「コロナ禍でタクシードライバーかなり厳しい状況続いた?」中井さん:「大変でした。だいぶ戻ってはきているけど。そのときは本当に大変な思いしていました。下手したら(売り上げは)半分ぐらいまで落ちました」。
平岸ハイヤーでは、2020年8月、運転手3人が新型コロナに感染。すぐに会社名や感染した運転手の乗務履歴を公表し、不安を抱える利用客の対応にあたりました。神代晃嗣社長:「平岸ハイヤーに乗ってくれるお客様がゼロになったらどうしようという恐怖感はすごいあったが、事実を素早く発信したことによって逆に信頼してくれるお客様も結構いて、営業再開日には『待ってたよ』とか『再開してくれてありがとう』と言う声も非常に多かった」。
新型コロナウイルスの影響で、タクシー業界の売り上げは激減。初めて緊急事態宣言が出た2020年4月には、コロナ前の4割ほどに落ち込み、今も元には戻っていません。
逆境の中、オープンしたのが「Apple Lodge」。この店では、運転手3人が交代でバーテンダーを務めています。神代社長:「タクシー会社って面白くて、第二第三のキャリアとして選ばれる方も多い。逆に裏返すと、たくさんのスキルを持った方々が弊社に入ってきてくれている。いろんなスキルを生かす方法はないかなと、ずっと考えてまして」。
4年前に運転手になった中井さん。それまでは、すすきので33年もの間、飲食店を経営し、接客もしていました。中井さん:「こっち側(カウンターの中)にいることはもう絶対にないと思っていた。立ってみるとやっぱりこっち側の方がいいですね。お客様といろいろお話したり楽しいですよ」。
1958年、昭和33年創業の平岸ハイヤー。それまでは、この地でりんご農園を営んでいましたが、「交通手段が欲しい」という地域住民からの要望を受け、りんご園を売却し車2台を購入。タクシー業を始めました。今の社長は6代目です。神代社長:「『平岸を最強の住宅街にする』をキャッチコピー、ミッションに掲げてやらせていただいている」。
コロナ禍でこんなイベントも始めました。新鮮な野菜や果物が並ぶ「平岸マルシェ」。地元のお店を中心におよそ30店が参加。今も続く人気のイベントです。来場者:「活性化につながるし、住んでいる人にとってはいいかな」。「地域の良さを改めて感じさせるイベントだな」。
そして今月、新たなイベントをやるというので行ってみると...。司会:「どーもー!『やすと横澤さん』です!...大丈夫ですね」。今月14日、お笑いバトルの開催が決定。その名も「HOKKAIDO-1グランプリ」。使わなくなったタクシーの車庫を改装した「ダルマホール」が会場です。この日は、司会と打ち合わせ。(神代社長と司会のやりとり)
記者:「たくさん用意しないとだめなんですね?」神代社長:「そうみたいですね」記者:「お笑いライブをつくるなんて、なかなかない経験?」神代社長:「なかなかない経験です。タクシー会社ですからね。それで喜んでくれるんだったら最高ですけど」。「HOKKAIDO-1グランプリ」は、今月から毎月開催し、9月には年間のチャンピオンを決める大会も企画しています。
神代社長:「タクシー会社が移動するときだけのサービスではなく、地域の方々に娯楽を提供する。そこでつながりがどんどんできていけば、最終的には見守り、この土地に住んでいれば安心だよというようなサービスも提供できる会社になっていけたらいいな」。タクシー会社が街づくりを。平岸ハイヤーは、走り続けます。
朝起きたら突然手足が動かない...年間数例の珍しい病気に襲われた女の子 SNSで伝えたい思いとは?
2年前に突然、手足が動かなくなった10歳の女の子。絵を描いたり、料理をしたり、SNSを通じて自分の姿を発信し続けています。大きなハンデを負いながらも、伝えたい思いとは?
旭川市内に住む渡辺葉月ちゃん、10歳。首から下をほとんど動かすことができず、日常生活のすべてに介護が必要です。
(4歳の頃)葉月ちゃん「パパ大好き!」小さい頃から元気で明るい女の子。おしゃべりも大好きな葉月ちゃん。「ママが飲んでいるのが生ビール。奥にいるのが酔っぱらっているパパです。めちゃくちゃ酔っぱらっています」。
そんな葉月ちゃんの日常は、突然、奪われることに。2年前の3月3日、いつもと同じ朝のはずでした。母・千香子さん:「朝、普通に起こしにいったんですけど、葉月の声がして『立てない』って。訳が分からないというか、何が起こっているのかわからない状態だった」。葉月ちゃん:「不思議だった。ママにも怒られるし。『早く起きなさい』って。立てないんだって!」
毛様細胞性星細胞腫。子どもの脳にできることが多い腫瘍の一種で、悪性度は低いとされています。ただ、葉月ちゃんの場合、この腫瘍が首の中の脊髄にできてしまい、神経を圧迫。首から下へ脳の指令が伝わらなくなってしまいました。
旭川医科大学病院・鳥海尚久医師:「ゆっくり大きくなる腫瘍と言われていて、おそらくですが葉月ちゃんの場合も、昔からだいぶ前の段階から腫瘍自体はあって、ゆっくりゆっくり大きくなってきた。腫瘍を全部取り切りたいんだけど、全部取ってしまうと神経も全部取ってしまうことになるので」。
次の日には呼吸も出来なくなり、緊急手術に。人工呼吸器もつけざるを得ませんでした。父・政宏さん:「ICUに入ったら全く想像していた彼女じゃなくて、そのときは管だらけで、麻酔から覚めて私たちを見つけて、『パパ、ママ』って声は出ていないんです。でも口が『パパ、ママ』って」。その後も抗がん剤治療を続け、入院生活は半年に及びました。
自宅に戻った葉月ちゃんの生活は一変。小学校に通うことはできず、友達にも会えません。養護学校の先生が、週に3回、自宅で授業をしてくれますが、それも1日2時間だけです。
両親が仕事で家にいない日中は、おばあちゃんと弟の涼月君と過ごします。およそ30分おきに必要なたんの吸引は、医療行為。研修を受けた人しかできません。おばあちゃんが、葉月ちゃんの命を預かっています。祖母:「おっかない。今でもちょっと入れすぎたらゲッてなる。でも本人が頑張っているから」。
葉月ちゃんがお母さんにお願いして、一緒に始めたインスタグラムでの発信。葉月ちゃん:「頑張っている人に元気をあげられたらいいなって思って」。同じように病気になってしまった子どもたちや、闘病を支える親たちが、自分の姿を見て前向きになってほしいと、毎回工夫しています。
母:「笑えればいいんだよね」。葉月ちゃん:「笑えればいい」。(インスタグラム @chikako.watanabe.1272)
入院中に、絵を描くことも始めました。体が動かなくなっても、声を出せなくなっても、葉月ちゃんの「明るさ」はそのまま。
父・政宏さん:「ペンをくわえて手紙を書いてくれたんです。絵を描いてくれて。その時に、何も変わらないんだなと。ただ不自由なだけで、根本は何も変わっていないんだな、この子って。我々2人じゃとてもじゃないけど前を向いて歩いていくことができなかったと思うんですけど、娘がとにかくポジティブで前向きで、その姿を見て一緒に前を向けるようになったような形ですかね」。
娘の病気が分かって、美容師の仕事を辞めようと思っていた千香子さんも。「辞めなきゃいけないってなったときに、葉月が『ママは美容師さんでいてほしい』っていうのを言ってたんですよね。『美容師さんしているママが好きだからやめないで』って」。
週2回のリハビリ。理学療法士・島田勝規さん:「筋力も退院してきた時はほぼゼロだったけれど、今は2ぐらいのレベルになってきたし、左手に関しては肘を伸ばす力は3をちょっと超える強さまで回復している。徐々に」。
葉月ちゃんが元通りに回復することはありません。それでも、リハビリを頑張って、実現したいことがあります。人工呼吸器を外して声を取り戻す。どんなことにも前向きに挑戦する葉月ちゃん。「やりたいこと」が、たくさんあります。