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くじらもり惣七・あしたのためのその4

2010年02月12日(金)

「海は病院なんだ」と、鯨さんは言う。

なんのことやら分からないし、鯨さん本人に、どういうこと?と聞いても、
なんだか、もごもご言うだけで要領を得ない。

鯨さんにはそういうところがある。

「どうして絵を描いてるの?」と聞いても、
「分からないんだよなぁ...」と、本気で困る。

まぁ、確かにそういうものだよなぁ、という思いもするので質問を変える。

だが、しばらくすると、また、

「海は病院なんだよ」と、言うのだ。

ぼくはまた、なるほどねぇとうなづきながら、
それでも相変わらずなんのことやら分からず、
でもどこかで、そうねぇ、そうなのかもねぇと思う。

病気を治して欲しい時、確かにぼくらは病院へ行くから。
だから病院へ行けば、何かを治してくれるなぁという思いが自分の中にはあって。

でも、治して貰いたいところが何処なのか、
それが分からなければ、ぼくらは病院へなど行くことはないし。

それでも、
「海は病院なんだよ」と鯨さんから聞くと、

治してもらいたいところが何処かも分からないまま、
ただ、暖かい海を思い出し、気分が安らぐ。

海になら。

治して欲しいところが何処か分からないままでも、行けそうな気がする。

だとしたら。

ぼくには治してもらいたいところがあるのかもしれない。

ぼくは意識してなどいないけど、
ぼくの身体は、治して欲しいと訴え続けているのだろうか。

だから海へ行けと、忘れかけた本能が、鯨さんの心の中で囁く。

「海は、病院なんだぜ...」と。

その囁きは、ぼくの耳にも聞こえてくる。

嬉野 雅道