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監督と監督 <藤村監督編>

2019.03.04

漫画を実写化するときに「絶対にやってはいけないこと」

監督としての藤村が今回まず考えたことは、「原作を読んで目につく事件やニュースは『トカゲの確保』とか『濁流のサルを保護する』とか、実生活では起こりそうもない荒唐無稽なこと。こんなことを、コメディだからと熱心に実写化して、はたして面白いものになるかな?と、まず考えた」。漫画の実写化は"漫画を忠実に再現すること"と思っていたが藤村監督は違う答えにたどり着いていた。「だったら、このドラマの中で起きる事件は、べつに『怪獣が出た!』でもいいのかなって(笑) つまり軸となる事件や人は走り出せばいいだけで、面白いのはむしろそれに巻き込まれる周囲の同僚や日常のほう。実写化では、そっちを丹念に描く方が面白くなる。だったら『怪獣が出た!』で、振り回される記者の日常が、わちゃわちゃ際立っていってこそ、この作品は面白い。そこに佐々木先生が描いた漫画の面白さはある。俺はそこを見つけていけばいいと気づいた」。藤村監督の演出プランは、"日常にある普通の人たちが生み出す思いがけない滑稽さ"を描くことに徹底シフトしていった。

一番悩んだ花子の見せ方「彼女はバカじゃない」

何を描くべきか、どこに演出プランの焦点を当てるのかを掴んだ上で、藤村監督が一番悩んだのは「花子の見せ方」とキッパリ。藤村監督が描く花子は、常にキビキビと動いている。「花子は常に自分の目の前のことを見つめて、考えて、そうだと思ったら突っ走る」。相手の目をまっすぐに見つめ、真剣さを崩さない花子だ。「できました!って自信満々で持ってくる彼女の企画書をさ、デスクは一瞬見ただけで、もうヘトヘトになる。だって、できてないから。それでも花子は『どこが間違っているのか教えてください!』と食い下がる。いや、全部だよっていう(笑)
こんなのが周りにいたらひたすらうっとうしいけど、でも花子は悪いヤツでも、変人でもない。常に真剣なだけなんだよね」

アドリブ連発にも理由あり
本筋にかき消される日常の必要性

ロケの53日間、監督でもあり役者でもあった藤村監督は「まぁ、どっちの方が面倒だったかといえば監督だよね」と笑う。役者・藤村について、共演の飯島寛騎はクランクアップ会見でこう述べる。「藤村さんは笑いに貪欲で、どんな時も細かいアドリブを入れてくる」
しかし、アドリブを常に盛り込んだことには別の意図があった。「(台本にある)セリフのやり取りだけで物語を進めていくと、決め事だけが進行していくみたいで、そこにあるはずの日常っぽさが薄れる。セリフの後にアドリブを足したのは、笑いというより、自分だったら口をついて出るであろう会話や仕草を足しただけ。思いついたら勝手に喋り出す、人間の日常ってそれでしょ」
「俺がこのドラマの演出で意識していたのは『日常』を丁寧に表現すること。そこは監督のときも役者のときも変わらなかったよ。大事な芝居のあと視聴者が真剣に耳を傾けなくていいどうでもいい会話がはじまると、そこから日常に帰っていく感じがして、ちょっと気が抜けてクスッと笑える、そしてやがて本題がまた始まる」。藤村に役者と監督の違いってなんでしたか? なんて、ありふれた質問をしたことが恥ずかしくなった。お見事でございました。

[プロフィール]
藤村忠寿 TADAHISA FUJIMURA
1965年生まれ。愛知県出身。1990年北海道テレビ放送(HTB)入社。バラエティ番組『水曜どうでしょう』の名物ディレクター。2008年『歓喜の歌』(大泉洋主演)、2009年 『ミエルヒ』(安田顕主演)などを演出するなど、実はドラマ監督の経験豊富。